「こんにちはー」
そこはカオスだった。
「ごめんくださーい」
一応、そう声をかけてはみものの、それどころではないことは一目瞭然だった。
「お邪魔しますよ~」
念のためもう一度声をかけ正面玄関から学校へ入ると、藤原蒼士は改めてその光景に目を瞬かせた。
校門を入り、遠目に見た時は数人にしか見えなかったが、近づくにつれそれが何十人単位であることが見て取れた。
玄関を入って下駄箱から左右に伸びる長い廊下を埋め尽くす勢いで多くの高校
生たちがなにやらモメていたのだ。
耳をそばだててみると、
「浮気者!」
とか、
「大好きって言ったのに!」
という、痴話喧嘩があちこちで勃発している様子だった。
幸いなことに、怒っているのは女子生徒で、男子生徒は逃げているという構図がメインなせいか、力業による大事には至っていなかった。
勿論、大人数での騒ぎ故、事故が起こらないとも限らない。
止めるに越したことはないのだが、蒼士は、
「う~ん……」
と唸ったまま考え込んでいた。