弓長には高見沢という恋人がいるのに。──いいや、そうではない。
弓長に恋人がいようといまいと関係はない。
司が女性と抱き合っていた。それ自体が原因なのだ。

初対面時は一瞬人攫いにも思えた、ドS俺様が服を着た象徴みたいな人物。神代司が……。


来夢は、生まれて初めて味わう内なる感情に、


「……ああ~」


三度声を漏らしていた。


「来夢、どうかした?」


隣からかかった声に振り向くと、


「なんかあった?」


来夢のあやかしなごりの理解者であり、好きな人をストーカーしてしまう【べとべとさん】のなごり持ちでもある陽葵が心配そうにこちらへ目線を送っていた。
陽葵はストーカーをしていた結城智也になごりを理解してもらえ、今では目出度く彼氏彼女の間柄で、学校内でも幸せそうな毎日を送っている。
その分、来夢とは過ごす時間は減ったが、何かあればこうして声をかけてくれる優しい友人であることに変わりはなかった。


「もしかしてあずき洗い? それともすねこすり?」


「そう……だった方がまだよかったかもです……」


「え!? なごりより大変なこと!?」


なごりの辛さを知っているだけに、来夢の反応にたまらず身を乗り出す陽葵。


「何事ですか」


すかさず古文の文法を呪文のごとく詠唱していた中年教師が反応するが、それは。