「アテられる?」


「どういうことですか」


「あやかしの血を濃く引き継いだものが強い感情でなごりを発症すると、なごりによっては症状が人に伝染するということだ」


「それでみんな、美波みたいに嫉妬に狂ってるんですか?」


「ああ……。弓長から溢れた清姫の負の感情が、同調しやすい女性の心にとり憑いたんだ。弓長から離れれば時期に収まるだろうが、しばらくの間は、みんな嫉妬に心を焦がした清姫だ」


「だ、大丈夫なんですか? それ」


美波が原因とわかったからか、高見沢の顔が心なし青ざめていく。


「やよい」


「なに?」


「ここにいるみんなが、あまり熱くならないよう頼んだ」


「はっ? 頼んだって何をすればいいのよ!」


突然丸投げされたやよいも顔色を変える。


「だいたいまだこの状況の説明だってちゃんとしてもらってないんだからね!」


「俺たちの会話で察しはついているんだろう。これは清姫というあやかしのなごりが原因だ。ケンカを仲裁していればそのうちみんな冷静になる。俺たちは被害がこれ以上大きくならないよう、なごりの持ち主を止めにいく」


「だからって──」


か弱い女子高生に、10組以上のカップルのケンカを止めろなんて横暴よ! どれだけドSなの!

そう言おうと思ったが、次の司の台詞でやよいは言葉を飲み込んでいた。


「一人、優しいイケメンに心当たりがある」


気づけば、ここは任せろとばかりに親指まで立てていた。


「あ、やばい……」


つい勢いで請け負ってしまい一瞬後悔したが、


「そのかわり──ぜ~ったい、紹介させてやるからね」


自分を奮い立たせるように吐き捨てると、やよいは体育館を出て行く司たちに背を向けた。