聞き覚えのある声が耳に届いた。
「へー、来夢から聞いてたけど学校にいるってホントだったんだ」
声の主が、駆け寄ってくる。体操服姿の女子生徒だ。
一瞬、目を細めるが、
「え? ちょっと司? まさか私のこと忘れちゃったの? 司って実は記憶力ヤバイ?」
と、タメ口に加え名前を呼び捨てで連呼され、すぐに思い出した。
「……やよい、か」
「そう! 弥生ひかり! どっちも下の名前みたいなね」
この一見おとなしそうに見える背の低い女子生徒は、【べとべとさん】の時に来夢と仲良くなった気さくな女子生徒だった。
あの時は失恋をしたわけだが、今では完全に立ち直ったようで、
「あれからまだ彼氏できないんだけど、司にイケメンで優しくて頼りがいのある知り合いとかいない? いたら紹介して」
と期待の眼差しを向けてくる。
「そんなどうでもいいことは置いておいて、この状況説明できるか」
司は、やよいの話をスルーすると、再び体育館を見渡した。
まだ、あちこちで怒れる女子に振り回される男子たちが右往左往している。
「どうでもよくはない!」
とは言いながらも、流石に状況がおかしいと理解しているのか、やよいは起こったことを教えてくれる。
「授業が始まる直前に弓長先生と早見先生、それから1組の天野由香がやってきたと思ったら、急に天野が怒り出したの。彼氏と仲良くしていた女子に向かって」
「天野?」
「ほら、あそこでまだやりあってる子」
やよいが指さした先では、制服の女子生徒が、男子と女子2人を相手にヒートアップしていた。
「あれは、美波に連れて行かれた生徒です」
高見沢が何気なく補足する。
「でも、どうして美波に怒られるんじゃなくて、彼女が?」
美波のなごりが暴走して、てっきり早見や生徒になにかしていると思いこんでいた高見沢は予期せぬ状況に首を傾げる。
だが、
「あてられたか……」
司はボソリ呟いていた。