廊下を小走りに進み、美波が向かったであろう体育館へたどり着く。

防音の備わった重い扉を開け、中を覗く。


すると、


「どうして他の女の子ばっかり見るのよ!」


「信じられない!」


「浮気よ!」


「ちょっと待ってくれ」


「誤解だ」


体操着姿の男女があちこちで入り乱れモメていた。


「スケベ! マキの胸見てたでしょ!」


「健司は祐美のことばっかり!」


「いや、男の本能だって」


「一瞬、目がいっただけだし」


どうやら、スタイルがいい女生徒に目を奪われた男子が、おそらくは付き合っている彼女に叱られているらしかった。

それだけなら、カワイイ痴話喧嘩で済む話だが、そこにはいくつかの疑問が思い浮かぶ。

まず、男女は別々に体育の授業を行っているはず。

今日のように雨天で共に体育館を使用していたとしても、授業内容は別で、わざわざ隣の授業を中断しようとするものはいないだろう。

特に男子の目線が気になる、などという日常的な理由では。


第2に、


「やっぱり、わたしなんかより若い子がいいのね」


「俺は見てないって!」


「気づかない訳ないでしょ! 鼻の下伸ばしちゃって」


「そ、そんなわけないだろ」


言いながら顔の下半分を手で隠したのは男性体育教師で、顔を真っ赤にして怒っているのは女性体育教師だった。

生徒を止めるはずの教師までもが、一緒になってモメているのだ。


「あの2人って、付き合ってたんですね」


高見沢の感想はさておき、司は一番の疑問である内容を口にする。


「弓長美波はどこだ」


ここへ来たはずの美波の姿が見えなかった。


隅まで見渡しても体育館の中にそれらしい人物は見受けられない。


早見と女生徒を連れ、どこへ行ってしまったのか。


そう思っていると、


「──司!」