「お皿を洗わせてください!」


レストランの扉を開けると、少女は大声を張り上げていた。


「お願いします!」


日曜のお昼時。満席の店内。
すべての客、店員の目が一斉に少女へと注がれていく。

だが、彼女は少し頬を上気させただけで、躊躇することなくテーブルの間を進んでいくと、カウンター越しに見える厨房へ声をかけた。


「洗い物をさせてください! お皿でも鍋でも石ころでもなんでも洗います!」


ポカンとする店員をよそに、少女は潜り戸を抜けると、勝手に洗い場に陣取り腕まくりをする。

そして、


「いきまーす!」


返事を待つこともなくその場にあったありとあらゆるもの、食器や調理道具、調理人のつけていたエプロンまでわしゃわしゃと洗い始めた。


「ちょ、ちょっとお客さん。困りますよ」


調理長らしい、ひときわ高いコック帽をかぶった恰幅のいい男性が我に返るが、少女は、


「ごめんなさい! でも、わたしも困るんです!」


譲らない。それどころか、


「限界なんです! それよりもっと洗い物をお願いします! ──あっ、そのグラスとナプキンもください。むこうのフライパンも!」


さらに高速で手を動かし続けた。