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「これを私に?」
 

 それはバイト帰りに祖父母の家へ泊まりに来た日のことだった。

 ニコニコした表情の祖父母から手渡された紙袋。
 そこには、若い子の間で人気のブランドのロゴが入っていた。

 中を開けてみると、可愛らしいワンピースが入っていた。


「どうだ、柚子?」


 柚子の反応を期待に満ちた顔で待つ祖父と、そんな祖父の反応を楽しげに見る祖母。


「すっごく可愛い……」

「そうだろう、そうだろう」


 祖父はドヤ顔だ。


「どうしたの、これ?」


 柚子が問い掛けると、祖父は照れたように顔を赤くする。


「あー、いや、あれだ。ちょうど通りかかったら柚子に似合いそうだったんで買ってきたんだよ」


 そう言った途端、祖母が吹き出して笑った。


「違うわよ。この人ったら慣れないスマホで検索して、若い子に人気の洋服屋を探して、朝早くから店の前に並んで買ってきたのよ」

「お、おい!」


 ばらされて恥ずかしいのか、顔を真っ赤にする祖父。


「並んだの、お祖父ちゃん?」

「いや、まあ、その、もうすぐ柚子の誕生日だろう。それでだな……」


 ばつが悪そうに頭を掻く祖父は恥ずかしそうだが、柚子は心の中が温かくなった。


 両親はきっと柚子の誕生日など覚えていないだろう。
 花梨の誕生日は毎年盛大にするというのに。

 だから、祖父母が誕生日を覚えてくれた事。
 プレゼントを買うために朝から若者に混じって買い物をしてくれた事。
 きっと若い女性向けの店で買い物をするのは居心地が悪かっただろう。
 朝から並ぶのは大変だっただろう。
 けれど、柚子のためにそれをしてくれた。

 物をもらった事よりもそれが嬉しい。
 

「ありがとう。お祖父ちゃん、お祖母ちゃん」


 柚子は久しぶりに幸せいっぱいの気持ちになった。