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 高校生になってから、すぐに柚子はバイトを始めるようになった。

 居場所を見いだせないあの家に帰るのが嫌だったからだ。

 安心できるのは学校とバイト先、そして祖父母の家だけ。

 それ故、平日は学校とバイトに行き、土日は朝からバイトを入れて働き、その後祖父母の家に泊まりに行く。
 ということを繰り返し、できるだけ家にいないようにした。


 祖父母の家が比較的近かったのが、唯一の救いだと思う。
 そうでなければ、柚子なくして成立しているあの家で息が詰まる思いをし続けなければならなかった。


 それでも、まだ未成年の柚子。
 全く家に帰らないというわけにもいかない。
 たとえ両親が、いてもいなくても柚子に興味を持たなかったとしても。


 あいにく今日は、テスト期間中で授業が終わるのも早く、テストがあるのでバイトも入れていない。
 タイミングが悪いことに祖父母も外出中。
 夕方まで図書館で勉強して粘ったが、帰らざるをえなかった。


 家の玄関を前に、柚子は深呼吸する。
 ただ家に帰るのに、こんなに憂鬱な気持ちになる者などそう多くはないだろう。

 しかし、いつまでもこうしているわけにもいかない。


 溜息を一つ吐いて、ゆっくりと家の中に入る。