リビングへ行くと、所々服が焼け焦げた瑶太を囲む花梨と母親。

 父親も玲夜を警戒しながら、瑶太の様子を見ている。

 当の玲夜はどこ吹く風。
 もう父親など眼中にないという様子で、祖父と弁護士と何やら話をしている。


 柚子が入ってくると、その手の鞄に視線を移す。


「それだけか?」

「うん。……ねえ、あの人は大丈夫なの?」


 全身を火で包まれていた瑶太は、床に転がって身動き一つしない。


「問題ない。少し霊力をぶつけたから気絶してるだけだ。
 火傷もあの程度、狐ほどのあやかしならすぐに回復する。
 俺の柚子に怪我をさせたから、ちょっとしたお仕置きだ」


 お仕置きなんて可愛らしいものですんでいるように見えないのだが、人間とあやかしはやはり体の作りが違う生き物なのだろう。


「準備が出来たなら行くぞ」


 柚子から鞄を奪うと、肩を引き寄せて歩き出す。

 しかし、柚子は玲夜の手から離れ振り返る。


「これまで育ててくれたことには感謝してます。お世話になりました」


 三対の目が憎々しげに柚子に突き刺さる。

 しかし、柚子はそんな眼差しには負けず、一度だけ深く頭を下げると、玲夜と共に長年暮らした生家を後にした。