「どうする、柚子?」

「急に言われても混乱して。それに、お祖父ちゃんもお祖母ちゃんも年金暮らしで、一緒に暮らすには二人の負担になるだろうし」


 週末だけ泊まりに行くのとは訳が違う。
 あの家から出られるのなら大歓迎だが、祖父母の負担にはなりたくない。
 まだ学生の柚子には、バイトを頑張ったとしても限度がある。
 現実的な問題として、その選択を簡単には受け入れられない。


「祖父母の負担を考えてるのなら気にしなくて良い。
 祖父母と養子縁組をするだけで、柚子はここで暮らせば良い。
 金銭的な不自由をさせるつもりはない」

「はっ!?いやいや、他人の玲夜にそこまでしてもらうわけにはいかないから」


 すると、玲夜は眉をしかめ眼差しを鋭くさせた。
 その迫力に柚子はたじろぐ。
 どうも、玲夜の機嫌を損ねてしまったようだ。


「他人だと?言ったはずだ。お前は俺の花嫁。花嫁が苦しんでいて放置などできるはずがないだろう」

「でも……」

「でもじゃない。もういい。柚子が決心できないならこちらで話を進めておく」

「えっ、玲夜!」


 とっさに玲夜の腕を掴むと、その手の上から手を握られる。


「あやかしにとって花嫁は唯一無二の絶対の存在だ。悲しむ姿など見ていられない。今は黙って俺に頼れ。決して悪いようにはしない。
 それとも、俺が嫌か?」

「……その言い方はずるいと思う」


 すでに玲夜にほだされかけている柚子が、寂しそうに問うてくる玲夜の顔を見て、流されないわけがない。


「なら、決まりだ。柚子の家に行くぞ。話を付けに行く」

「えっ、もう?」


 即断即決。強引すぎる玲夜に、柚子は付いていくのがやっとだ。

 けれど、嫌な気はしない。
 これまで変えたくても変えられなかった自分を、玲夜が塗り替えていってくれるのが分かるから。