女性に案内されたのはすぐ隣の部屋だった。

 まるで高級ホテルの一室のように綺麗に整えられた部屋を、興味津々に見回していると。


「失礼します」


 そう言って、突然女性が柚子の服を脱がしに掛かった。
 ぎょっとした柚子はすぐに女性から距離を取る。


「なな、何ですか?」

「着替えのお手伝いをと思いまして」

「自分でできるので大丈夫です!」

「そうですか?」


 酷く残念そうな女性の表情にほだされそうになったが、子供ではないのだから手伝いなど冗談ではない。


 渡された着替えは浴衣だった。

 まるで旅館に来たような気持ちで着替え終えると、女性はまだニコニコとしながら待っている。


「お洋服は洗濯しておきますね」

「ありがとうございます」

「とんでもございません。花嫁様のお手伝いが出来るなど、光栄なことですわ。争奪戦に勝ったかいがあります」

「争奪戦?」

「ふふふっ」


 女性は上品に笑うだけ。


「あの花嫁なんですよね、私?」

「勿論でございます。玲夜様がそうおっしゃいましたから」

「玲夜、さんというのどういう人何ですか?」

「玲夜様はこの鬼龍院のご子息であらせられます。鬼龍院のことはご存じですか?」

「それほどは……。すみません」

「構いませんよ。これからゆっくりと知っていけばよろしいのですから。
 あやかしの頂点に立つあやかしである鬼。その鬼にはいくつかの家がありますが、鬼龍院家はそれらを取りまとめる本家筋。玲夜様はその本家の時期ご当主になります」

「あなたも鬼なんですか?」

「はい。この家にいる者は皆、鬼のあやかしでございます。
 私は分家のそのまた分家に当たる者ですが、ちゃんと鬼でございますよ」


 ほらと言うように、手のひらを上に向けると、青い炎が手のひらの上に現れた。
 握り締めるとそれはすぐに消え去ったが、確かに人間ではないようだ。