柚子は言葉が出なかった。
鬼龍院とは、あやかしの中で最上位に位置する鬼。
あやかしを取りまとめる、トップに立つ家だ。
それに花嫁?
何を言っているのか理解できなかった。
そんな柚子に構わず、玲夜は柚子を離すと突然抱き上げた。
「うえぇ?あ、あの……」
「送る。こんな時間に出歩くのは危ない。家はどこだ?」
そう聞かれて柚子は口ごもった。
「どうした?」
「帰りたくないの……」
なので降ろして、という前に玲夜は柚子を抱き上げたまま歩き出した。
そして、路肩に止められていた黒塗りの高級車へ向かうと、スーツの男性が一礼して後部座席の扉を開けた。
玲夜は柚子と共に乗り込む。
柚子が混乱している間に扉は無情にも閉まってしまった。
そして走り出す車。
オロオロしていると、玲夜に頭をポンポンと撫でられた。
玲夜を見れば、その瞳は優しさに満ちていて初対面だというのに、何故だろうか、とても落ち着く。
会話はないのに、居心地が悪いとは感じない。
玲夜は火傷をした柚子の手を取る。
そっと上から触れられると、激しい痛みが走って、くぐもったうめき声が口から漏れる。
玲夜は手を乗せたままでいる。
何をしているのかと、じっと観察していると、玲夜の紅い目が淡く光を発した。
驚いてその瞳を注視していたが、玲夜の視線は火傷のある手に向けられたまま。
少しして、あれほど痛かった手の痛みが消えていくのを感じて手を見ると、火傷が綺麗さっぱりなくなっていた。
まるで最初から火傷などしていなかったように綺麗に元通りに。