もう笑いすら込み上げてくる。
「何を笑っているんだ、花梨に謝りなさい」
「嫌よ。なんで私が花梨なんかに謝らなきゃいけないのよ。
そもそもお父さん達が花梨を甘やかすからこんな事になったんでしょう。
私の事なんて二の次、花梨花梨花梨って花梨のことばっかり」
「それは、花梨は特別な子なのだから仕方ないでしょう」
「そんなの私には関係ないわよ。私にしたら花梨なんかただの甘やかされた我が儘女じゃない」
「おい」
柚子の言葉を遮るように、低い声が発せられる。
父親とは比べものにならない、低く威圧する声。
それまで頭に血が上っていた柚子の心を冷やすほどの威力を持った声。
瑶太が、花梨を庇うように抱き寄せ、柚子を睨み付けていた。
柚子を刺し殺しそうなほどの金の目。
蛇に睨まれた蛙のように動けなくなった。
「俺の花梨を傷付ける者を俺は許さない。それ以上言うなら、花梨の姉と言えども容赦はしないぞ」
こいつもやはり花梨の味方。自分の味方になってくれる者はここにはいない。
そう思ったら、柚子は自棄になった。
「どう容赦しないって?何度でも言ってやるわよ。女王様気取りで、自分の思う通りにならないとすぐに癇癪を起こす我が儘むす……きゃあ!」
つらつらと毒を吐き捨てる柚子の手が、突如火に包まれた。
激しい熱さと痛み、そして肉の焼ける匂い。
これにはさすがに両親も驚いて近くに置いてあった花瓶の水を柚子の手にかけたが、火は収まらない。
しかし、花梨が瑶太の名を呼ぶと、何事もなかったように火は消え失せた。
妖狐の扱う炎の力。
実際に目にするのは初めてだったが、これがそれなのだろうと、柚子は先程まで頭に血が上っていたのが嘘のように冷静にそう判断した。