カッと頭に血が上る。


「何してるの!?」


 びくりと体を震わせて振り返った花梨は、柚子を見るとニコニコと笑う。


「なんだ、お姉ちゃんか。急に大きな声出すからびっくりするじゃない」


 そもそもここは柚子の部屋だ。
 それでも花梨は悪びれる様子はない。


「その服……」


 花梨が今持っているワンピースは、まだ紙袋から出さないまま置いていた。
 汚すのが怖かったので、次に祖父母と出かける時まで大事に取っておこうと紙袋にいれたままだった。
 それでも、もらった嬉しさから、飾るようにテーブルの上に置いていたのだが、どうやら勝手に中を見て取り出したようだ。


 
「この服可愛いよね。これって今人気のブランドのでしょう。どうしたのこれ?」

「お祖父ちゃんからもらったの」

「えー、いいな、いいなぁ。お祖父ちゃんも私にも買ってくれれば良いのに。お姉ちゃんだけずるい」


 別に花梨は祖父からもらわなくとも、両親や瑶太から散々貢いでもらっているだろうに。
 お小遣い以外では滅多に買ってくれない柚子とは違って。 


「ねえ、これ貸して。今度瑶太とデートする時に着ていきたいから」


 何を勝手なことを言っているのか。
 柚子の中に怒りが湧いた。


「嫌よ。いいから返して」

「えー、いいじゃん、ちょっとぐらい。貸してよ」

「貸さない」


 断固とした姿勢を見せていると、花梨はムッとした表情をする。

 両親と瑶太が甘やかしたせいか、花梨は自分の思い通りにならないとすぐに機嫌を悪くする。

 それが分かっているから、大概のことは大目に見るが、それだけは駄目だ。
 それは祖父が柚子のために手に入れてくれた大事なプレゼント。
 他人の垢を付けたくない。