私はちょうど桜が咲き始めた頃に産まれて、自宅の庭には記念樹として桜の苗が植えられた。随分と大きくなった桜の木は隣の家まで枝が侵入してしまっているのだが、隣のおじさんとおばさんも気に入ってくれているので春には庭で一緒に花見をするのが毎年恒例である。

「春になったら自宅の庭、…パン屋の裏側に桜の木が植えてあるので見に来て下さいね」

記念樹の話を彼にすると関心を持った様で、是非見たいと言っていた。

「くしゅんっ」

夜も深まり、気温も下がって冷え込んで来た。私はクシャミが出て来て、身体の冷えが気になる。まだ話をしてみたいけれど時間も遅くなって来たし、寒いし…。

「申し訳ない。寒い思いをさせてしまいましたね、夜も遅くなってしまって父上にどうお詫びすれば良いのか…」

「大丈夫ですよ、心配しないで。……また改めてお話出来ますか?今度は前持って時間を決めて暖かい場所でお会いしましょうね」

彼は私にスーツのジャケットを掛けてくれた。彼は鬼と雪女の混血だからか、あやかしだからかは分からないが、暑さ寒さは余り感じないらしい。

いつの間にか22時を過ぎてしまっていて、彼に送られて自宅に帰った時には父は既に寝ていた。母と妹が起きて待っていた。大丈夫ですから…とお断りをしたのに玄関先まで着いてきた彼は自分のせいで遅くなってしまったと深々と母と妹に頭を下げた。

付き合ってもいないし、ましてや店の常連客から進展していないのに「また改めてご挨拶に伺います」と勝手な挨拶をした彼。母と妹はイケメンさと凛とした振る舞いが気に入り、「次はいつ来るの?」と私を蔑ろにして即座に約束を取り付けていた。母と妹のミーハー振りには参った。……とはいえ、私も彼の綺麗な顔立ちとスタイルの良さには惹かれているので同じ部類かもしれない。