思い起こせば二週間前に道路で轢かれてしまった白犬が居た。私はその白犬の横を通過したが、何もしてあげられない状況だった。

「鬼ガ 人間ヲ囲ウナンテ 随分ト落チブレタモンダナ」

巨大な白犬は私達に飛び掛かろうとした時、彼の右手から光の様な物が発されているのが目に入った。

「お前は憎しみ故、犬神と化して関係のない者を巻き込んだ。故に成仏などする必要も無い」

光が巨大な白犬に触れ、パンッと弾ける様な音と共に消滅した。

目の前で起こった現象が理解出来ずにいたが、私は腰を抜かしてしまい、ストンと公園の地面の上にしゃがみ込んでしまった。

白い巨大な犬はさっきのだとしても、鬼とは……?

「大丈夫ですか?」

彼は私の手を取り、ヒョイッと軽々しく抱き抱えてベンチに座らされた。

「驚かれたでしょう?貴方は化け犬に取り憑かれていたんですよ。最近の不幸や体調不良は全部、化け犬のせいです」

彼はスーツのボタンを外し、ベンチに腰掛けながら背伸びをしている。

「えぇ、とても驚きました。初めは目に見えなかったのですが、段々と見える様になって目の前には巨大な犬が居て…」

「化け犬が最大限の力を放った事により、貴方にも見えたのでしょう。今のご気分は如何です?」

彼は急に私の顔を覗き込んだので、驚いて顔を背けた。心臓に悪く、脈を打つスピードが上がる。

「気分は良くなりました。肩も軽くなりましたし…」

「それは良かった!犬の死体を見た時に可哀想だとか同情の念が奴の心に伝わって、取り憑いたのだと思います。動物は悪霊となって取り憑く場合がある故、今後はお気を付けて」

彼は丁寧に説明をしてくれた。私が思うに彼の正体は……。

「はい、気を付けます。……貴方は霊媒師さんなのですか?」