「契りとは、人間として共に生きるか、妖となり共に生きるかの選択です。鬼は人間よりも遥かに寿命が長く、伴侶が亡くなった後も新しい伴侶を見つける鬼もいます。
私は生涯で桜花さんだけを大切にしたい。桜花さんが人間のままで生きたいなら私が人間になります。桜花さんが私と共に長くこの世を生きたいなら、妖の力を分け与えます」

「よく意味が分からないのですが…」

「つまり、桜花さんが人間として人生を全うしたいか、妖の力を得てより長生きしたいかと言う事ですよ」

「はぁ…そうですか…。やはり、鬼さんの寿命はどれだけ長いのですか?」

「人間が生涯80歳だとすると…その5倍は生きるでしょうか?」

「えぇー!400歳ぃー?」

驚いて繋いでいた手を離してしまった。もうすぐ酒屋さんだと気付いた彼は再び繋ごうとはしなかった。

よ、400歳の生涯だとしたら、皇大郎さんは一体お幾つなんでしょうか?今後、結婚したとして私が先に老いて亡くなるのは確かな事で…私が妖の力を手に入れれば共に長生き出来ると言う事か…。

しかし、様々な問題も多々ある。妖の力を得て寿命が伸びたとして、老いが緩やかになる訳だから…人間の世界では生活しにくいのではないか?

「大丈夫ですか?パニックになってません?」

「だ、大丈夫ですけど…。私はまだ結婚するとも言ってませんし、そもそもお付き合いもしてな、って皇大郎さん、聞いてますー?」

彼は聞く耳を持たずに先に酒屋さんに入って、店主と話をしていた。お父さんがいつも買っている銘柄を聞き、先に購入していた。

「お店の方がお祝いだって、日本酒をおまけしてくれましたよ」

「な、何のお祝いですか?ま、まさか、結婚するとか言ってませんよね?」

「言って欲しかったですか?それは残念です。…パン屋に弟子入りするからと言いました」

彼はニヤリ、と口角を上げて微笑み、流し目で私を見たので咄嗟に顔を背けた。彼の持ち合わせている妖艶なオーラに私は負けそうだった。