近場の肉屋さんですき焼き用のお肉を買い、スーパーマーケットで野菜などを買った。馴染みのお店ばかりで、男連れな為に行く度に冷やかされた。

彼に上手く乗せられて、手を繋ぎながらの帰り道。荷物が重くなるからと言って、帰り途中に寄る事にした酒屋さんに着くまでの約束。彼の手は大きくて骨張っている。

「桜花さん、父上はどんな酒が好みですが?」

「ビールをいつも飲んでいます。おめでたい席では日本酒も飲んだりするかな?」

「昔は酒と言えば日本酒でしたが、現代の日本では沢山の美味しいお酒が売られてますね。私はシャンパンがお気に入りです」

「へぇー…、そうなんですね。私もシャンパンは好きですよ」

何気ない会話をして過ごす時間が楽しかったりもする。

彼、皇大郎さんからアプローチを受けて常連客から特別な存在に変わるまでの時間なんて微々たるものだった。恋は突然やって来る、正にその通り。

二人きりの時間がもっと長く続けば良いのに…。恋愛に欲が出たら切りがない。付き合ってもいないのだが、私は確実に彼の手の内に堕ち始めている。

「……桜花さん、本日、御両親に結婚の許しを得ても良いでしょうか?」

「えっと…、」

彼は私と結婚したいのは確かな様で、ぐいぐいと押し迫って来る。私はきちんとお付き合いをして段階を踏んでからが良いのに…。

「許しを得ないと契りを交わせないんです」

「契り…と言いますと?」

鬼には鬼の結婚の儀式でもあるのかな?もしかして…本当は生け贄の花嫁で食べられちゃったりします?

「……食べたりしないですよ。今の世の中、邪鬼は存在して悪さはしますが、人間を食べるなど空想上の話ですから」

彼に考えていた事を見破られたみたいで、クスクスと笑われた。