「離して下さい!!!」
叫んでいるロングの巻き髪女性は制服を着ていた。
うちの高校の人だ…。
思わず足が止まる。
「おねぇひゃん。ぼくしゃんといっひょにのみまひょ?」
女性の右手首を掴んでいる40代ぐらいの頭頂部がハゲているサラリーマン風のおじさんは酔っぱらっているみたいだ。
ろれつもまわってないし、体がフラフラして動いている。
辺りは薄暗いし……いけるかも…。
「帰らせて下さい!!!」
「おねぇひゃん……」
「離しなさい……」
私は二人の側まで来ると、低く暗い声で言う。
「だりゃだ?」
おじさんが目をこらすように私を見る。
「離しなさい……」
私はゆっくり歩きながら、固めている前髪を右手で上げる。
「助けて下さい!!!」
「りゃからだ…だりゃだ!!!」
私は街灯の光りがあたる所に来ると、立ち止まる。
うまくいきました……。
思った通り、おじさんは女性の手首を離し、逃げて行った。
女性の方も……逃げて行った。
思った通り……。
『うわぁぁぁぁぁ』
『きゃぁぁぁぁぁ』
『化け物!!!』
『助けて!!!』
おじさんと女性は叫んだ。
私、三目姫華のおでこにある三つ目を見て。
次の日。
「公園に化け物が出たんだって」
「化け物?」
「おでこに目があるんだって」
思った通り、うちの高校の生徒達は、私の噂をしていた。
「本物の目なの?」
「作り物じゃない?」
「本物らしいよ。
気持ち悪いよね」
「だね」
「おでこに目…ってね」
そう言いながら、私の右横を通り過ぎていく女性三人組。
『気持ち悪いよね』
うん。
私もそう思います。
人間の女性と三つ目をもつあやかしの男性から産まれたのが私。
人間じゃない。
あやかしじゃない。
半分人間、半分あやかしなのが私。
分かってます……。
でも、鏡にうつる自分のおでこを見た時。
「気持ち悪い……」
私はつぶやいてしまうんです。
そんな気持ち悪い私を誰かに知られるのが嫌で、前髪は常に眉上、風で上がらないようにスプレーで固めてます。
『姫華! 遅刻するわよ!!』
『分かってる!』
遅刻しそうでも必ずやってから、学校に行きます。
気持ち悪い私を親しい人に知られるのが嫌で、親しい人を作りません。
『三目さん。一緒に学食に行こう』
『すみません。私、弁当なんです』
親しくならないように、昼食時間を人が多い学食じゃなく、裏庭で一人、過ごします。
これからも、ずっと、一生。
私はそんな風に生きていくんです。
朝のSHR。
「転校生を紹介する」
担任の黒目先生のその言葉にクラスが一斉にざわつく。
「入れ」
黒目先生の声と同時に、ガラッと扉が開き、一人の茶髪男性が教室に入ってきた。
モテそうな顔です。
クラスの女性達は興奮し、男性達は警戒している。
でも、その雰囲気は……。
茶髪男性が黒目先生の隣に立った瞬間、変わりました。
クラス中が静まり返ったんです。
モテそうな茶髪男性の顔の左頬にあった上から下に一直線の傷。
その存在に皆気づいたからです。
「はじめまして。目白日向です」
1校時目の数学が終わり、休憩時間になると、目白さんがクラスから出て行った。
それと同時にクラスの人達が目白さんの事をしゃべり始める。
「何、あの顔の傷……」
「刃物で切られたような傷だよな……」
「ヤクザに……やられたとか?」
「それ、あり得るんじゃない? 不良みたいだし」
「殴りあいとかいっぱいしてそうだよな」
「ヤクザとか怖……い」
「三目!!」
へっ?
「はい……」
私?
「目白と何を話したんだ?」
ああ……なるほど……。
1時間前。
「目白の席は、委員長の隣な」
黒目先生が委員長の隣の席である窓際の一番後ろの空席を指差す。
「分かりました」
目白さんは教壇から下りると、自分の席を目指して歩き出す。
そして、私の席の左横を通り過ぎず、目白さんは止まり、
「ねぇ、名前教えて」
私の名前を聞いてきた。
「三目……です」
私が戸惑いながら答えると、
「下の名前は?」
下の名前まで聞いてきた。
「姫華……です」
「三目姫華?」
「はい……」
「目白! 何してる!
早く席につけ!!」
「はい!」