「はい、これ、大兄」
放課後の練習終わり、校門から出ると、紅寧は大智に小さな紙袋を渡した。
大智はそれを、サンキュ、と微笑みながら受け取った。
「ん?」
紙袋を受け取った大智は妙な違和感を覚えた。
紅寧から受け取った紙袋があまりにも軽かったからだ。
最早、何にも入っていない感じだ。
大智は受け取った紙袋の中身をすぐに確認した。
「何だこれ?」
紙袋の中には折りたたまれた紙が入っているだけだった。
大智は中に入っていた紙を取り出した。
中にはもう何も入っていない。
見ればわかること。
だが大智はそんなはずはないと、空の紙袋の中を隅々まで見たり、探ったりした。
当然、何も見つかりはしない。
諦めた大智は唯一入っていた紙を注視した。
大智は紅寧に紙を見せるようにして、首を傾げた。
それに紅寧は笑顔で答える。
「バレンタインのプレゼントだよ」
「えっ、これ?」
大智は驚いて目を見開いていた。
「そっ。開いてみて」
戸惑っている大智を他所に、紅寧は笑顔を続けている。
紅寧に催促され、大智は首を傾げながら紙を開く。
紅寧がやろうとしていることの意図が全く読めていない様子である。
大智は紙を開き、広げた。
「は?」
紙に書かれた文字が目に入って来た大智は、目を大きく見開くと、そのまま固まってしまった。
そんな大智の様子を紅寧は変わらず笑顔で見続けていた。
「えっ、これ……マジ?」
固まっていた大智は動き出し、持っている紙を紅寧に見せるようにすると、顔を引きつらせながら訊いた。
「なーんてね。はい、これが本当のプレゼントだよ」
紅寧は鞄からもう一つ紙袋を取り出して大智に渡した。
「何だよ、びっくりさせるなよ」
「びっくりした?」
大智の反応が思い通りで嬉しかったのか、紅寧は満足そうに笑っている。
「あぁ、まんまとやられたよ。でも良く考えたらバレンタインのプレゼントが練習メニューっておかしいもんな。しかも、今までの二倍って。冗談きついぜ、全く」
大智はそう言うと、はははっ、と笑っていた。
それに呼応するように紅寧も、はははっ、と笑った。
「冗談じゃないよ」
笑っている最中、しれっと紅寧が言った。
「そうだよな。冗談じゃないよな! ……え?」
突然、真顔になる大智。
対照的に紅寧は依然、ニコニコと笑っている。
「あ、ちなみに最後の一週間は三倍だから」
紅寧は大智に向けて、ニッコリと笑って見せた。
だが大智にそんな笑顔を見ている余裕はなく、まるで強烈な顔面パンチをくらったかのように、クラッと後ろに倒れてしまいそうになっていた。
「どうしたの、大兄?」
紅寧はきょとん顔のまま、小首を傾げ、大智の様子を見ていた。
「えっと……、一応確認するけど、今まで言ったこと、全部本気だよな?」
大智は恐る恐ると言った様子で訊いた。
「勿論! 剣兄に勝つつもりなんだから当然でしょ。それとも何? 剣兄に勝ちたくないの? 甲子園に行きたくないの?」
紅寧の言葉に大智は唇を噛みしめた。その通りだと思った。
「勝ちたいし、行きたいです!」
「だったら弱音を吐かないの! いい? あと二週間、徹底的に追い込むからね」
きつい言葉で紅寧にそう言われた大智は、手の平で顔を、パンッ、パンッと二回叩き、自身を鼓舞した。
「しゃっ! こうなったら、とことんやってやらぁ! 何でも、どっからでも、かかって来いや!」
大智の様子を見て、紅寧はふふふっと微笑む。
「その意気、その意気。それでこそ大兄だよ」
自身を鼓舞するように天に向かって叫び続ける大智を、紅寧は温かい笑顔で見つめていた。
放課後の練習終わり、校門から出ると、紅寧は大智に小さな紙袋を渡した。
大智はそれを、サンキュ、と微笑みながら受け取った。
「ん?」
紙袋を受け取った大智は妙な違和感を覚えた。
紅寧から受け取った紙袋があまりにも軽かったからだ。
最早、何にも入っていない感じだ。
大智は受け取った紙袋の中身をすぐに確認した。
「何だこれ?」
紙袋の中には折りたたまれた紙が入っているだけだった。
大智は中に入っていた紙を取り出した。
中にはもう何も入っていない。
見ればわかること。
だが大智はそんなはずはないと、空の紙袋の中を隅々まで見たり、探ったりした。
当然、何も見つかりはしない。
諦めた大智は唯一入っていた紙を注視した。
大智は紅寧に紙を見せるようにして、首を傾げた。
それに紅寧は笑顔で答える。
「バレンタインのプレゼントだよ」
「えっ、これ?」
大智は驚いて目を見開いていた。
「そっ。開いてみて」
戸惑っている大智を他所に、紅寧は笑顔を続けている。
紅寧に催促され、大智は首を傾げながら紙を開く。
紅寧がやろうとしていることの意図が全く読めていない様子である。
大智は紙を開き、広げた。
「は?」
紙に書かれた文字が目に入って来た大智は、目を大きく見開くと、そのまま固まってしまった。
そんな大智の様子を紅寧は変わらず笑顔で見続けていた。
「えっ、これ……マジ?」
固まっていた大智は動き出し、持っている紙を紅寧に見せるようにすると、顔を引きつらせながら訊いた。
「なーんてね。はい、これが本当のプレゼントだよ」
紅寧は鞄からもう一つ紙袋を取り出して大智に渡した。
「何だよ、びっくりさせるなよ」
「びっくりした?」
大智の反応が思い通りで嬉しかったのか、紅寧は満足そうに笑っている。
「あぁ、まんまとやられたよ。でも良く考えたらバレンタインのプレゼントが練習メニューっておかしいもんな。しかも、今までの二倍って。冗談きついぜ、全く」
大智はそう言うと、はははっ、と笑っていた。
それに呼応するように紅寧も、はははっ、と笑った。
「冗談じゃないよ」
笑っている最中、しれっと紅寧が言った。
「そうだよな。冗談じゃないよな! ……え?」
突然、真顔になる大智。
対照的に紅寧は依然、ニコニコと笑っている。
「あ、ちなみに最後の一週間は三倍だから」
紅寧は大智に向けて、ニッコリと笑って見せた。
だが大智にそんな笑顔を見ている余裕はなく、まるで強烈な顔面パンチをくらったかのように、クラッと後ろに倒れてしまいそうになっていた。
「どうしたの、大兄?」
紅寧はきょとん顔のまま、小首を傾げ、大智の様子を見ていた。
「えっと……、一応確認するけど、今まで言ったこと、全部本気だよな?」
大智は恐る恐ると言った様子で訊いた。
「勿論! 剣兄に勝つつもりなんだから当然でしょ。それとも何? 剣兄に勝ちたくないの? 甲子園に行きたくないの?」
紅寧の言葉に大智は唇を噛みしめた。その通りだと思った。
「勝ちたいし、行きたいです!」
「だったら弱音を吐かないの! いい? あと二週間、徹底的に追い込むからね」
きつい言葉で紅寧にそう言われた大智は、手の平で顔を、パンッ、パンッと二回叩き、自身を鼓舞した。
「しゃっ! こうなったら、とことんやってやらぁ! 何でも、どっからでも、かかって来いや!」
大智の様子を見て、紅寧はふふふっと微笑む。
「その意気、その意気。それでこそ大兄だよ」
自身を鼓舞するように天に向かって叫び続ける大智を、紅寧は温かい笑顔で見つめていた。