「ねぇ………時雨、キスは?」
「………待って、後少しで日付変わるから」
「もう!ムードっ!」
「待ってて………今から沢山してあげるから」
時雨はそう言うと薫の唇を人差し指でトントンと軽く押さえた。
むつけた顔をしながらも、そうやって誕生日を迎えたいと思ってくれる彼の気持ちが嬉しくて、寝室にある時計をジッと見つめる彼を眺めて微笑んでしまう。
「もう少しだ。5、4、3、…………薫、お誕生日おめでとう」
「ありがと………ぅ…………」
彼のカウントダウンの声はしっかりと聞こえた。それなのに、「おめでとう」の言葉はほとんど聞こえなかった。急激に睡魔に襲われたのだ。
どうして、自分がこんなに眠くなるのか分からない。
けれど、瞼を閉じるのを我慢出来ないのだ。
薫は、何も考えられないまま体の力が抜け、そのまま時雨の体に倒れた。
「おいっ!薫?!……嘘だろ………どうしたんだ?薫っ!」
愛しい人が必死に自分の名前を呼んでいるのにも気づくことはなかった。