「せっかく温まったんだ。早く寝室に行くぞ」
「うん」
2人でお風呂に入り、お互いの時間を過ごした後、同じベットで眠る。彼が準備してくれた長袖のパジャマは、秋らしく金木犀のように淡いオレンジ色で薫のお気に入りだった。
手を繋いで寝室に向かう。寝る前に薫はいつもする事があった。アロマディフューザーを使ってアロマオイルの香りを楽しみたいのだ。
薫は昔から白檀の香りが大好きだった。
時雨と付き合い始め、彼の部屋で過ごすことが多くなってきた頃から彼にお願いしてここでも使わせて貰うようになった。彼もこの香りが好きになったようで香水までも白檀にしてしまうほどだった。
「うん。今日もいい香り!」
「薫、もう日が変わる」
「わかったー」
薫は急いで彼の元へと歩き、大きなベットに乗り上がる。そして、ベットに座ったまま待っていてくれた時雨に抱きついた。それだけで、嬉しくてニヤけてしまう。
交際が長いとマンネリになってしまうのではないか。そう思っていたけれど、時雨とは違っていた。一緒にいる時間が長くなれば長くなるほどに彼を好きになって、もっともっと彼を知りたいと思ってしまうのだ。
こんなに愛しいと思える人が、幼い頃からずっと一緒だったなんて、幸せなことだと思いながらも、勿体ないことをしてしまったとも感じていた。若い頃の自分に「もっと近いところに大切な人はいるよ」と教えてあげたいぐらいだった。
時雨は薫を抱きしめながら、心地よい低音の声で薫だけに囁いてくれる。
「薫………今年も一緒におまえの誕生日を迎えられて嬉しいよ」
「うん。私もだよ」
「ほんと、今でもおまえが俺のものになったのが夢なんじゃないかと思う時があるだ。一緒に寝てても起きたら隣にはいなくて、全てが夢だったんじゃないかって」
「………そんな事ないよ。私はずっと時雨の隣にいる」
「………あぁ。そうだよな。……俺を好きになってくれてありがとう」
「私こそ、ずっと守っていてくれてありがとう」
薫は彼を見上げてキスを求めた。
時雨はにっこり笑いながらもまだキスをしてくれない。