『時雨はしっかり薫と恋人になれたね。ずっと見守ってたけど、なかなか2人は恋人にならないから心配したんだよ』
 「……ミキ、見守っててくれたんだ」
 『当たり前だよ。僕は時雨と薫が大好きなんだから……』
 「………ミキ。薫がとっても大切だって気づいたんだ。おまえの事を忘れてしまっても、俺がおまえの分も薫を幸せにしなきゃって。きっと、そう思ったんだと思う」
 『そっか……本当は僕が幸せにしてあげたかったけど、25歳の誕生日までに恋人になるって約束だったから、仕方がないから今回は時雨に譲るよ。でも、薫を泣かせたらすぐに僕が貰う』
 「………絶対に泣かせない」
 「時雨……ミキ………」


 ミキはまた大粒の涙が頬に伝う。すると、頬にミキの指が触れたような気がした。
 ハッとすると、『泣かないで、薫』と囁く声が聞こえた。


 「ミキ………ごめんなさい。あなたの事忘れたくなかった。それなのに、忘れたことも気づかないで、ここまできてしまって………ごめんね。ミキ」
 『それは仕方がないことなんだ。薫が気にする事じゃないよ。それにね、僕は薫と大人になってデートをしたのが、今でもドキドキしちゃうぐらい嬉しかったんだ。誕生日を僕が独占して祝えてよかったよ』
 「私も楽しかったわ………ねぇ、ミキ。ミキは、僕はクジラだって言ったけど、私はそうは思ってないよ」
 『え………』
 「出会ったときも、一緒に遊んでくれた時もミキは私を助けてくれて。忘れていたあなたを思い出させてくれたのも、ミキ………。私にとってミキは、クジラなんかじゃない。ペルセウスなんだよ」
 『僕がペルセウス?』
 「えぇ……これ、夢に出てきてくれたお礼。ペルセウスの星だよ」


 琥珀を入れてある方とは逆のポケットから取り出したもの。それはここに来る途中に、寄ってもらった天文台で買ったものだった。ペルセウスの星の形をしたキーホルダーで星の部分にはキラキラと光る宝石が埋め込まれていた。
 それをミキに差し出すと、そのキーホルダーがふわりと風にのったかのように、手から離れる。

 『わぁー!綺麗だなぁ………僕がペルセウスだなんて、嬉しいよ。ありがとう、薫』


 そう言うと、ミキは薫に抱きついたのか、薫の体が温かくなる。


 「ミキ………私もあなたが大好きよ」
 『僕も大好きだよ、薫』


 しばらく2人は抱きしめあった。
 彼のぬくもりや、香りに包まれ、薫は昔の出来事や昨晩の夢を思い出す。
 とても楽しくて、優しい思い出。