それから、時雨はいろいろな事をしてミキを忘れてしまいそうになった時に備えた。
薫がミキを忘れてしまった時は、時雨が覚えていたので薫を呼び覚ませる事が出来た。けれど、時雨にはそんな人はいない。忘れてしまったら、そのまま永遠に忘れてしまうのだ。
時雨はそれがとても恐ろしく感じ、ある対策を取る事にした。まずはミキについて詳しく書いたノートを作った。そして、毎日やる事リストを作り忘れてしまっても、まずは山のてっぺんに行くことと示した。楠に行けばミキが居るのだ。ほんとうに見えなくなるまでは、彼に会えるはずだと思ったのだ。
そんな対策をしつつ、時雨はミキを忘れることを日々怯えながら過ごしていた。
けれど、ミキに会えばとても楽しかった。薫はどんな事にハマっているのか、勉強は頑張っているのか、そんな話をしながら、「恋人になったらどんなデートをすれば薫が喜ぶか」なんて、恥ずかしい話もしていた。
そんな楽しい時間を過ごしているうちに、ミキの事を本当に忘れる時がくるのだろうか。そんな良い疑いまで持ってしまうようになった。
けれど、終わりの日はゆっくりと近づいていたのだ。
それは、薫がミキを忘れてから2年ほど経った、時雨が12歳になる頃だった。
時雨は授業を受けている時に、見慣れないノートを見つけた。パラパラと捲ると、自分の字で「ミキについて」や「毎日やる事」が書いてあり、その他にもミキという少年と何をして遊んだかの日記が2年前からつけてあったのだ。
時雨はそのノートを見て、ハッとした。
「…………今、俺はミキを忘れていたのか?」