「おまえだって、薫が好きだっただろ?見てればわかるんだからな。とぼけてもダメだ。おまえが薫を諦めるなら、俺が貰う」
 「……時雨。僕は妖怪。あやかしだよ?薫と恋人になんて……」
 「薫はそんな事気にする奴じゃないだろ?!あいつは、そんな奴じゃない」
 「……時雨……」
 「それに、俺だっておまえに負けたくないってずっと思ってたんだ。ミキは友達だけど、ライバルでもあるって……だから、おまえが諦めるなら、あいつは俺が恋人になってもらう!」


 そこまで一気に言葉を発したからだろうか。それとも、ここまで走ってきた時の疲れが、まだ呼吸を乱しているのだろうか。
 どちらかわからないけれど、時雨は、はーはーっと深い呼吸を繰り返した。

 時雨の言葉を正面から受け止めていたミキは、目を大きく開けて、口もポカンと開いていた。それぐらい、時雨の言葉に驚いたのだろう。
 時雨は、ミキが自分が薫を好きだとバレていた事に驚いているのだと思った。そのため、少し得意げな笑みを浮かべてミキを見ていた。
 
 すると、ミキは肩を小刻みに揺らし始めた。時雨はミキが泣いているのかと思い、思わずミキに向かって手を伸ばした。すると、そうではなかった事がすぐにわかった。


 「くくくっ…………は、はははははっっ!!」
 「!!」


 ミキはお腹を抱えながら、思い切り笑い始めたのだ。目尻には涙を浮かべ、呼吸が出来なくなるぐらいに笑い転げていた。
 突然笑い始めたミキに、時雨はギョッとしてしまう。


 「な、何で笑うんだよっ!」
 「ははは……ごめん……でも、時雨は変わってるなって……くくく………はぁー面白いっ!」
 「こっちは真剣に……」
 「そうだよね。ごめん……ちょっと待って。今、落ち着くから」


 そう言うと、ミキは大きく深呼吸をしながら涙が溜まった目をゴシゴシと手で拭った。


 「時雨の言う通りだ。薫は僕があやかしだからって嫌がるような子じゃないよね。……まだ、時雨が僕の傍に居てくれるんだ。僕も諦めない事にするよ」
 「……まぁ、俺が勝つけどな」
 「不器用な君には負けないよ」


 2人はそう睨み合った後、くくくっと小さく笑い合った。


 「………ありがとう、時雨。本当に君が僕を覚えていてくれて嬉しいんだ。また、遊ぼう。そして、薫の話を聞かせてよ」
 「あぁ。そうするよ」


 時雨とミキは、手で拳を作り、お互いの拳をコツンッとぶつけた。
 
 時雨はその時、1日でも多くミキを覚えていられるようにしよう、と心に決めたのだった。