1話「誕生日の睡魔」




 「もう、心配しすぎだよ」
 「………俺もそう思ってるけど、一応。それに明日1日休みを取ってんだから、前日から一緒に居てもいいだろ?」
 「それは、私は嬉しいけどね」
 「………だったらいいだろ………」


 時雨は、少し恥ずかしそうにしながらペットボトルの水を飲んだ。先ほど開封したばかりなのに、もう半分も飲んでしまっている。寝る前にそんなに水を飲んだら夜中に目が覚めるんじゃないかと心配になるが、それ以上文句を言えば彼がいじけてしまうので、薫は見守るだけにした。



 薫の恋人である時雨は、同じ年の友達でもあり幼馴染みだ。幼い頃から一緒に過ごし、大学まで一緒という腐れ縁だった。
 そんな時雨と恋人になるなんて想像もしていなかったけれど、社会人になってすぐの頃に時雨から告白をされた。
 初めは驚き、友達としか見れないと思っていた。けれど、何度も告白されているうちに少しずつ彼の大切さに気づき始めてきた。そんな時に、時雨が他の女性と歩いているのを目撃し、ショックを受けたのだ。
 薫はそれを目撃して自分が悲しんでいる気持ちを知り、自分の中でどれぐらい時雨が大切なのかわかり、薫は時雨と付き合う事にしたのだ。
 もちろん、彼が一緒に歩いていたのは会社の先輩だったというオチだったので、一安心だった。


 時雨と恋人になってから、薫はとても幸せな日々を送っていた。
 時雨は昔から自分が好きだったことを教えてくれた。薫が恋人を作る度に応援してくれたし、別れれば慰めてくれたのは彼だった。そんな時雨が昔から自分が好きで見守っていてくれたと知ると、すごく幸せだと思いつつも、気づかなくて申し訳なかったと思ってしまう。
 時雨はどんなに辛かっただろうかと想像して、その話をしてくれた時は泣いてしまった。けれど、そんな時も彼は優しかった。
 時雨は「そうやって泣いてくれるだけで、今までの気持ちは報われるよ」と、優しく微笑んでくれたのだ。

 それからというもの、薫はますます時雨を大切に思うようになった。
 時雨はそんな薫の変化にすぐに気づき、いつも「幸せだ」と言ってくれる。
 薫は時雨がとてもとても大好きになっていった。