「時雨?」
 「………この、俺が書いた『薫の25歳の誕生日 薫を守れ!』って、ミキが25日の誕生日だけは僕がもらうって言ったんだ。……そうだったんだよ………。って事は、今日だけはミキの記憶があるって事かもしれない。現に、今俺たちは昔の事を覚えてる」
 「え………それじゃあ、もしかして………ミキに会えるの?」
 「それは………わからない。子どもじゃなくなった俺達があいつに会えるか……。でも、確かめてみたい」
 「うん。じゃあ………行こう、森へ」


 2人は頷いて、すぐにベットから降りた。
 薫はもう1度手の中の琥珀を見つめた。
 夢の中だけのデートのはずだった。それなのに、どうして手の中にそれがあるのか。
 本当に彼がこの場所まで来てくれたのではないか。
 薫はそう信じてやまないのだった。






 薫が目覚めたのは、25歳の誕生日を向かえた朝早くだった。その間、薫はずっと眠っていたようだ。


 「本当に体に異変はないのか?」
 「うん。どこも大丈夫だよ。むしろ、たくさん寝たって感じ」


 時雨が運転する車に乗った薫は、2人で地元に向かう事になった。運転しながらも薫の様子が気になるようで、何度も「気持ち悪くない?」「寝てていいぞ」と心配してくれた。けれど、薫がニッコリと微笑みそう言うとホッとしたようだった。


 「それはよかった。本当に心配したんだぞ。突然倒れるように寝始めたんだからな」
 「それは私のせいじゃなくて………たぶん、ミキがしたことなんだよ。私と話したかったのかな」
 「昨日の夢、教えてくれよ」
 「わかった」


 午前中にはあの森に到着するだろうが、まだまだ時間はある。薫はゆっくりと昨日の夢の話をした。夢のはずなのに、鮮明に覚えているのだから不思議だ。
 ずっと持っている琥珀の石を見つめながら、薫は遠い昔の事を思い出し語るかのように、ゆっくりと言葉を紡いだ。

 薫がミキの話をしている時。時雨は、とても静かにその話に耳を傾けていた。薫が切ない気持ちになって涙ぐみ、鼻を啜ると「………そうか」と言いながら、少し顔を歪ませた。
 

 「それで、たぶん時雨の声が聞こえたから、この夢が覚めたんだと思う」
 「………そうか。教えてくれて、ありがとな」
 「ううん…………。ねぇ………時雨はどうして思い出したの?」
 「………あぁ、それも含めて話さないといけないな。昨夜の事も、昔の事も。……そして、ミキの事も………」

 
 時雨の表情はとても切なく、そして悔しそうで、彼に何があったのか。そして、何故苦しそうにするのか。
 薫は、時雨を見つめ、彼の次の言葉をじっ待った。

 
 しばらくしてから、薫は口を開いた。
 それは懐かしい昔の話からだった。