4話「クスノキ」
「薫………大丈夫なのか?……どこか痛むか?」
「ううん………そうじゃないの」
あぁ……この声は恋人の時雨の声だ。
それなのに、何故かあの人の声も聞こえるような気がした。
けれど、ここには居ない。
薫は涙を拭きながら、ゆっくりと起き上がった。すると、時雨は薫を優しく抱きしめ「よかった………心配した」と、大きく息を吐きながら声を震わせそう言った。
時雨が自分の事を心配していたのがわかり、薫は「ごめんなさい………大丈夫だよ」と彼をギュッと抱きかえそうとした。しかし、手の中に何かが入っている事に気づいた。
ずっと手を握りしめたままだった左手。
薫は時雨に「ごめん………確認したい事があるの」と言って彼から体を離し、薫は時雨と一緒に手の中にあるものを見ることにした。無意識にずっと持っていたもの。薫は、それが何かもうすでに分かりかけていた。
ゆっくりと指を開き、中を見つめる。
「やっぱり………琥珀だ………」
「琥珀?………薫、それどうしたんだ?」
薫はその不思議な石を持ち、窓から差し込む光りに照らした。透明な石がキラキラと輝き、中の葉も透けてみえる。
時雨も不思議そうにそれを見つめている。
「これ………実はさっきもらったの………。ねぇ、時雨は覚えてる?」
「まさか………」
時雨は薫の顔を見て、驚いた表情を見せた。それを見て薫はハッとした。もしかして、彼もあの日の事を思い出したのではないか、と。
「「ミキ」」
同時にその名前を呼んで、薫と時雨は目を大きく見開いた。どうして彼も思い出したのだろう。彼の事を。
「どうして、私たち忘れてしまってたの?」
「それは、子どもじゃなくなったから」
「え……それってどういう事?」
時雨は何かを知っているようだった。けれど、彼は何か考え込んだ後、ハッとした。
そして、ベットの隣りにあるオケージョナルテーブルの上に置いてあるあの紙を取った。