3話「僕はクジラ」
ミキと2人で海岸沿いにある天文台へと向かった。電車に乗ってまったりと移動するのも楽しかった。「電車って楽しいね」と子どものようにはしゃぐミキを見て、薫はこちらまで微笑んでしまっていた。
ミキはプラネタリウムを予約してくれたようで、開演時間までは展示室を見て回ることにした。
「秋の夜には、この星座が見えるらしいよ」
「へー………白鳥座にクジラ座、ペガスス座……顕微鏡なんてあるよ」
「すごいねー!………私は星空を見ても星座はわからないんだけどね」
「そうなの?星が好きだから詳しいのかと思ったよ」
「んー……プラネタリウムみたいに、絵が出てきたらいいのにね」
薫がそういうと、「星空に絵があったらか………確かにいいね」と、笑いもせずに真剣に頷いてくれた。
その後も惑星のブースや隕石のブースなどを見て回った。2人でワイワイと話したり、真剣に見たりしている、あっという間に時間は過ぎていった。
そして、プラネタリウムの時間になった。
平日の昼間とあってか、他の客はほとんどおらず、2人で真ん中の場所を選んで座った。座席はリクライニングのソファのようになっており、後ろに倒すと、薄暗い雰囲気になり眠くなってしまうかもしれない。けれど、今から星空が見られると思うと、薫はワクワクが止まらなかった。
「薫、楽しみ?」
横になったミキがそう言って聞いてくる。薫は「うん!」と、気持ちを押さえられなくて、ニッコリと微笑んで返事をすると、ミキは「やっぱりねー!顔がそう言ってる」と、笑ってくれた。
「ミキは、寝ちゃだめだよ?」
「寝ないよ!嘘の星空がどれぐらいなのか見てみたいし」
「もう………とっても綺麗なんだから!………って、ミキはもう何回も見てるじゃ………」
「ほら、始まるよ」
薫が彼に質問しようとした時、照明がゆっくりと暗くなっていく。
ミキとは何回もプラネタリウムに来ているはずだ。星空がとても綺麗だってことはわかっているはずなのに。そう思った時、薫の手が温かい感触に包まれた。
「ミキ………?」
「寝ちゃうか心配なら、僕が寝ないように手を握ってて、ね?」
「うん………」
指を絡めて手を握る。
薫は何故か不安になってしまい、ギュッと彼の手を握りしめる。すると、ミキは小声で「だから寝ないから大丈夫」と、耳元で囁いてくれたのだ。
その声を聞くと、原因がわからないとりとめもない不安が、少しずつ和らいでいくのがわかった。