押さえつけられた腕。


必死で腕を揺らし、


西野君の手をほどこうとすると


「彼氏いるのぉ~?知ってる知ってる。歩ちゃんなんで俺とつきあってくれなかったのぉ~?」


あきらかにバカにしているしゃべりだ。


そのバカにしている感じと西野君の目があたしの嫌な過去を引きずり出した。


《やめろ…》


『歩。気持ちいいだろ。はははっ』


『お前感じてるじゃん』


『こんなによがりやがって』


高校時代。


シンナーでラリっていた男友達に犯された過去がフラッシュバックし、その時と重なる。


『ここからぜってぇ逃がさねぇかんな』


『口閉じんじゃねぇよ!ちゃんと舌入れろや!』


『お前が悪いんだからな。好きだって言ってんのにシカトしやがって』


行為は何度も何度も続き、夜から朝方まで体をもて遊ばれた。


乱れた服が散乱した中で唇を噛み締め、口内に広がる血の感触。


精液を拭いたティッシュで床は荒れ、布団のシーツも精液と血痕で滲む。


上で腰を振り続ける男友達が霞んでいく姿。


涙すら出なくて、意識が何度も何度も飛び、気絶してた。


殺して。


いっそ殺せよって思いながら…


《やめろ…》


いつもの自分と自分では止められないヤバさをもった自分があたしの中には宿っている。


目がすわり、生気が飛ぶ。


多重人格かってくらいの別人に化す。


気付いたら、あたしの口調は変わっていた。


「おう、どけ…」


西野君はあたしの変化に気付いたらしく、掴む手が緩んだ。


「歩ちゃ…」


自然と足が動き、喧嘩なれしていたせいかあたしは西野君の腹部に思いっきり蹴りを入れていた。


「ぐふっ」


西野君は苦しかったのか、腹を押さえて体が離れた。


《コイツやっちゃっていい…》


頭の中は狂っている。


抑えられない怒りで人格が完璧に別人だ。


「てめぇわかってんだろうな!?」