しかし、じいちゃんもじいちゃんで、驚く返事を言ってみせる。


「葵のことを? 好きになってくれていいよ」

「ちょっと、じいちゃん⁉︎」


相手はあやかしなんだけど⁉︎
仮に人間だったとしても、そんなあっさり引き渡す⁉︎



「いや、駄目なんだ。俺はあやかしだから、葵と口付けを交わしたら、葵の生気を奪ってしまう」

「うーん。でも東和君は、葵に無理矢理キスしたりはしないだろう? そうだ、葵の警衛を任されてくれるのなら、毎日野沢菜のおにぎりを作るよ」

「えっ、本当か⁉︎ 分かった、じゃあ俺、やるよ!」

「待て待て待て!」


どういう意味だ、それは!
私のことを好きにならないようにって一度は姿を消そうとまでしたくせに、まさかのおにぎりの方が大事なの⁉︎



「しょ、食欲に負けた訳じゃないぞ!」

私が睨んでいることに気が付いたらしい東和が、慌てた様子で右手を左右に振ってくる。


「でも、こんな状況になった今となっては、俺が葵を衛るという選択肢が一番良いと思わないか?」

だって、死にたくはないだろう? と東和が問い掛けてくる。


……確信に満ちた顔でそんな風に言われたら悔しいけれど、確かに、いつ死んだっていいと思っていた自分はもういない。


もっと生きたいし、もっと成長したい。


私が無言で頷くと、東和は満足そうに笑った。



「大丈夫だ。葵のことがどんなに愛しくなっても、キスは絶対にしないから」


真剣な眼差しで、照れる様子もなくそんなことを言ってくるから……私の方が恥ずかしくなってしまう。