こんなことなら、東和が気に入っていた野沢菜のおにぎり、もっと握ってあげれば良かった。

もっと素直に、一緒に笑い合えば良かった。

気安く名前を呼ばないでなんていつも言っていたけれど、もっと名前を呼んでもらえば良かった。



涙を流しながらしばらくその場に立ち尽くしていると、目の前の道路脇の歩道を、同じ制服を着た見覚えのある人物が通る。

体育の授業で揉めた、いつものあの女子。


「……ちょっと、何で泣いてんの?」

私と目が合った彼女は、困惑の表情を浮かべている。


「別に……。そっちこそ、何でこんな所にいるの。家、こっちなの?」

「……ちょっと買い物したくて遠回りしたのよ。ていうか、その……ボール当たったところ、大丈夫だった訳?」


……もしかして、それを気にしてわざわざ私の家の前を通りかかったのだろうか。

きっとそうだ……この先に、買い物出来そうな店なんてない。