それは、初めての感触だった。
東和の唇は思ったより柔らかく、心臓が思わずドキンと音を立てた。


ゆっくりと唇を離すとーー東和が勢いよく、私の身体を自分から突き放した。


……は?



「何するんだ、お前」

そう言って、東和は右手の甲で自分の唇をぐいっと拭う。


……いや、そんな露骨に嫌な態度取る?



「……深い意味なんてないわよ」


喜んでほしかった訳ではないけれど、分かりやすく嫌がられて、傷付かなくもなかった。


だけど、それを悟られたくもなくて。



「……そろそろ帰らないとじいちゃんが心配するわ。ここから降ろしてくれる?」


平静を装ってそう伝える。



「ああ」



登った時と同じように抱えられ、東和は風のように軽やかに地上へと舞い降りた。


両足を地面につけた私は、すぐに東和に背を向け、無言のまま自宅へと向かう。



ーーやっぱり私には、誰かを愛するなんてこと、無理そうだ。

ーー私の側には誰もいらない。私には一人でいるのがお似合いだ。


そんなことを、考えながら。