騙された! という感情よりも、本音を見透かされていたことへの恥ずかしさが勝り、一気に顔が熱くなる。


……いつ死んでもいいという思いは、決して嘘じゃなかったはず。

でもきっと、本音ではなかった。

自分でも、そのことに今気付いた。



「やっぱりお前、恋愛でもしろ」

何事もなかったかのように、東和がしれっとそんなことを言ってくる。


「そうすれば、生きることももっと楽しくなるだろ」


……何なの? 私のこと励ましてんの?
あやかしのくせに。



「……だったら、教えてよ」

私の言葉に、東和が「え?」と首を傾げる。



「そんなに誰かを愛せと言うなら、恋愛しろって言うなら、その仕方を私に教えてよ。何なら、あんたのことを愛してやってもいいわよ」


それは勿論、半ばムキになって発した言葉。


でも。
私はじいちゃん以外の人間が嫌いで。
だけど、こいつは人間ではなくあやかしで。

だから、東和が相手ならば、私も〝愛する〟という気持ちが分かるかもしれないと思ったのも事実だ。



それでも、どうにも気まずそうで困惑した表情を浮かべる東和を見て、苛立ちが増す。


私は別に、東和を相手に本気で恋愛をしようとしている訳じゃない。

東和はあやかし。
東和は犬。

いつかの姫とやらがペットのように可愛がったのと同じように、愛するだけ。

だってそれなら、私にも出来そうだから。


ただそれだけなのに、そんな目で見られて、ムカついて。


飼い主がペットにキスをするのと同じ感覚でーー私は東和の唇を奪った。