「姫?」

「俺が子犬の姿であやかしになった頃、時代は平安時代。大和国の城で毎日退屈そうに生きていた姫はあやかしが見える存在でな、俺は彼女に拾われたんだ」

「そうだったの……。でも、恨みの感情しか抱かないままあやかしになったんでしょう? そのお姫様に、すぐに心を開けたの?」

「まさか。こんな弱そうな人間なんか、俺がすぐに殺してやるとすら思っていた……。だが、あやかしになったばかりの子犬だったからな、残念ながら齢十六の人間を襲う力すらなく、そのまま本当のペットのように可愛がられちまっていた。
でも……そうして姫に大事にされていく内に、次第に少しずつではあるが、自分の中にある憎しみが溶かされていくのが分かった。そして気付けば俺は姫のことをーー愛していた」


愛、というちょっと想像していなかった単語が出てきて、思わずドキ、と感じてしまった。



「姫も俺を愛してくれたぞ。まあ、子犬としてだけどな」

「ああ、そう。それで、そのお姫様はどうなったの?」