「俺がまだあやかしになる前ーーただの犬っころだった頃、産まれて間もなく、俺は親に殺された」

「はっ……?」

「子犬だった俺に、人間の匂いがやたらついていたんだと思う。飼い慣らされていない犬は人間を嫌うからな。
成仏なんか出来ずに、俺はあやかしとなった。その頃は、こんな風に人間の姿ではなく、ただの動物の姿だったんだがな」


東和曰く、一千年の時を経て、姿形が徐々に動物から人間へと変化していき、その過程で人間の言語も覚えたらしい。


「千年も経った今となっては、さすがに親への恨み辛みは持ち合わせてはいないが、あやかしになったばかりの頃は、寧ろ恨みしかなかったな。あはは」

「あははって……時が解決したってこと?」

「いや」


短くそう答えながら東和は、ずっと景色に向けていた切れ長で青い瞳を、私に向ける。


その瞳と口元は、優しく笑っていて。


「姫のお陰だ」