そう言われて初めて、自分の頬が完全に緩んでいたことに気付く。

じいちゃん以外の人に笑顔を見せるなんてもう何年もなかったのに、こんな出会ったばかりの、しかもあやかしに見せることになるなんて、不覚。


「まあ、とりあえず座れよ」

何であんたに命令されなきゃいけないのよ、と思いつつ、景色があまりに綺麗だから、私は東和と一緒にその場にいったん腰をおろした。


「千年も存在していると、それはもう色んなものを見てきた」

赤い景色を一望しながら、東和が口を開く。


「目に見える景色はどんどん移り変わるし、人間が住む家も、そこで暮らす人間も、どんどん変わっていく。今は城に住んでる人間はいなければ、姫もいないからな。それでも、変わらない景色ってのはあるもんだ」

「何が言いたい?」

「まあ、あれだ。今とは全然違うんだろうが、その頃から子供は学校に通ってたんだよ。学校がどんなものなのかはよく知らんが、俺が見てきた子供は皆、笑顔で学校に通ってたぞ。でも、葵が笑顔で学校から帰ってきたところ、一度も見たことがないなと」


急に何を話し出すのかと思えば、カウンセリングかっての。
じいちゃんとの約束だか何だか知らないけど、庭の掃除したり、私の話し相手になったり、まるで人間以上に妙に律儀なところがイライラする。


それでも、綺麗な景色を見せてもらっているお陰なのか、そのイライラがすぐに口から飛び出すことはなかった。


私が話し相手になってもらっているんじゃない、私があんたの話し相手になってやってるんだ、とは思いながらも、私もゆっくりと話を始める。