「ついてきて。君と話がしたい。」
案内されたのは、私の部屋と似たような和室だった。綺麗な部屋で、あんなものの着物がかけられていた。部屋の雰囲気も私の部屋と似ているから、あらかじめ調べてくれたのかもしれない。途中、女の人が運んできたお昼ごはんも、私の大好物だったから。
「これから夫婦になるんだ。君のことについて聞きたい。」
「はい。」
はいと答えたものの、どんな話をすればいいのかわからなかった。そんな私に、彼は助け舟をくれた。
「大丈夫。君がどんなことを思って生きてきたのかを聞きたいんだ。」
何かが、ふっと切れた気がした。美しく保たれてきたはずの、何かが。
「私、父に人形のように育てられてきたんです。」
今までのことがすらすら出てきた。それは、彼の魔法だったのかもしれないし、私が限界を超えていたのかもしれない。もしくは、その両方だったのかもしれないけれど、とにかく私は話し続けた。何時間も、いつまでも。
私の話が途切れた時、旦那様はふと言った。
「気が済んだかい?」
そういわれた時、私はポロリと一筋だけ涙を流した。