さらさら水の流れる音。ひゅうひゅう風のふく音。そんな自然多い山の中に、私は父の運転する車でつれだされた。
「ここだ。さ、ここからはおまえ一人で行きなさい。」
「はい、お父様。行ってまいります。」
いったいどんな人が待っているのだろうか。まともな人だと良いが。せめて、両親よりは。
そんなことを願いながら、ゆっくりと前に進んだ。落ち葉を踏み分け、サクサクと音を鳴らしながら進んでいく。
かなり登らなければならないようだ。だんだん坂になっていて、山を登っていく。白むくではきつい坂道だ。
ふと、私の頭の上に影が刺す。見てみると、人の形をしている。ありがたい。お迎えだろうか?
「お嬢さん。君が嫁ぐように言われて来た子?」
綺麗な声に、
「はい。」
とゆっくり返事をした。声は優しそうで、ほんの少し安堵する。が、まだどんな人かはよくわからないのだから、警戒を解いてはいけない。
「いらっしゃい。僕が君の旦那になるリクだよ。」
「はい、堂島琴音と申します。」
一切表情を変えずにそう答える。相手の方、リクは顔をしかめてこういった。
「こんな人形みたいな子が来るとは思わなかったよ。」
びっくりした。あんなに優しそうな声だったのに、こんなことをいう方だったのか。まるで大嫌いな父親のようだ。
けれど、反論できなかった。私は、父の人形として育てられた上に、表情のない、確かな人形に育ってしまったのだから。怒りは湧かなかった。ただ、これから先が不安になった。