「ここは温泉旅館だよ。」
旦那様は指を指して説明してくれた。
「…綺麗なところですね。」
近くでは川が流れ、さらさらと水の流れる音がする。周りには何本も木が植えられていた。そろそろ秋だから、だんだん色づいている。
「そうだろう?お嫁さんに来た人と一緒に行こうと思って、この間から予約していたんだ。」
その旦那様の言葉に、私は少しやきもちを焼いてしまった。もしお嫁さんに来たのが私じゃなかったら…旦那様は、他の人と…。旦那様のことが好きになってしまった今、そんなことを想像すると胸が痛んだ。
「どうかした?」
「いっ、いえ、何も!」
少し赤くなった頬を隠しながら、私と旦那様は旅館の中に入っていった。


「いらっしゃいませ。」
予約と受付は旦那様がいつも従えている人たちがすませてくれていたようだ。
旦那様はいつも誰か連れている。私への配慮か、女の人は少ないけれど。旦那様は、いったい何者なんだろうか?