西の空が茜色に染まりはじめたころ、社に信吉と八重の姿があった。拝殿の前に並んで立ち、持ってきた供物を供える。
 手を合わせ終わった信吉が、だれかを探すように周りを見渡すがふたりのほかに人の姿は見えない。

「ここのお稲荷さまはすごいですね。僕は、願いをふたつも叶えてもらえました」
「ふたつ?」

 顔を上げた八重が、拝殿と信吉を交互に見て首を傾けた。

「親方が認めてくれますように。餡子と――」

 信吉の目が一瞬八重の瞳をとらえて、すぐさま橙色の空に向けられる。

「八重さんとのこと」

 八重の目がまあるく開いて、頬が夕焼け色に染まった。

「じゃあ、いま私がお願いしたことも叶うかしら」

「なんですか?」信吉が問うと、かろうじて信吉に届く声で言う。

「信吉さんと、これからもずっと一緒にいられますようにって」 

 参道にふたつの影が長く長く伸びて、そっと寄り添った。