「お絹大丈夫?」
「ええ……」
ようやく意識がはっきりしてきたようで、お絹は小さく息をついた。
「すごい力ね。前も思ったけれど」
ホッとしつつ、一颯達が歩いて行った廊下へと惟子は視線を向けた。
「それはそうよ。あのぬらりひょんだもの」
(ぬらりひょん……ね)
あまりピンとこないながらも、一颯の力は何度か目の当たりにしていた。
「あと暁……って何ものかしら?」
「ああ、あの色白の無表情男? いつも食事とかを持ってくるわよ。それに……」
お絹は少し言葉を濁した。
「それに?」
「男娼みたいなものじゃないのかしら。それも一颯様のお気に入り……」
「そんな……」
風花とどういう関係だったかはわからないが、大切な人がそんな目にあっていると知ったらどれだけ悲しむだろう。
惟子はそう思うと、グッとこぶしを握り締めた。
「私に力があればいいのに……」
ため息交じりに言葉を発した惟子に、お絹は驚いた表情を浮かべた。
「ねえ、あなたさっきからそう言うけど、妖力はあるのよね?」
「え……あるのかしら?」
惟子の曖昧な答えに、お絹は惟子に詰め寄った。
「自分でわからないの? 妖火も知らなかったし……私も妖力が低い方ではないからここに連れてこられたと思っているけど。あなたもそうじゃないの?」
そうなのだろうか? 力はあったとしても使い方がわからない。
困惑した表情の惟子をお絹はジッと見つめた。
「ねえ、あなたもしかして……」
「え?」
何か思い当たることがあったのか、お絹の瞳が大きく揺らめいた。
「お嫁様?」
どこで誰かが聞いているかもしれない。そう思い惟子は慌ててお絹の口をふさいだ。
「シー! その言葉は言わないで」
それを肯定と受け取ったのだろう。お絹は小さく息を吐いて目を伏せた。
「そう、あなたが。そっか……」
その表情を見て、惟子はハッとした。
「お絹、もしかしてあなたサトリさんのことを……」
「嫌だ。気にしないで。昔の初恋よ。失恋したの。きまった女がいるって言われて。そっかあなただったのか」
昔を懐かしむように少しだけお絹は微笑んだ後すぐに表情を戻した。
「ねえ、それならなおさらどうしてこんなところに一人でいるのよ?」
「それが……。こっちの世界に飛ぶときに一人になってしまって。てんちゃんにも会えないのよ」
「てんちゃん? 天狐様ね」
(ああ、そんな名前だった)
惟子は小さく頷くとお絹は考えるような表情をした。
「そうか、あなたなにか不思議な感じがするのよね。もしかして妖石を持っていない?」
小さな声で惟子の耳元でお絹が囁いた。
「妖石? これかしら」
惟子はそっと自分の首にぶら下がっていた、サトリからもらった石と指輪を取り出した。
「これは!そういうことね天狐様たちがあなたを見つけられない理由」
納得したように言ったお絹だったが、惟子はまったく意味がわからなかった。
「わからないのだけど?」
問いかけた惟子に、お絹は初めにもらった石を指さす。
「こっちの石はたぶんあなたの妖力を抑えるもの、そしてこっちの指輪はあなたの存在を隠す結界ね」
「え?結界?」
小さく頷きながらお絹は言葉を続けた。
「サトリ様は現世であなたを守るために、あなた自身に結界を張っていたのね。現世では多少弱まっていたかもしれないけど、よほどのあやかしでない限り正確な場所を特定するのは難しかったはずよ」
(そうか、この2年平和にのんきに暮らせていたのはこの指輪のおかげだったのか)
改めてサトリに感謝しつつ、惟子は指輪と石に触れた。
「それがこのカクリヨに来たことによって完璧にあなたの気配を消すことになったのね。だからすぐには天狐様は見つけられないんだと思うわ」
「どうすれば結界がとけるの?」
詰め寄るようにお絹に聞いたところで、誰かの気配を感じ二人は言葉を止めた。
「ええ……」
ようやく意識がはっきりしてきたようで、お絹は小さく息をついた。
「すごい力ね。前も思ったけれど」
ホッとしつつ、一颯達が歩いて行った廊下へと惟子は視線を向けた。
「それはそうよ。あのぬらりひょんだもの」
(ぬらりひょん……ね)
あまりピンとこないながらも、一颯の力は何度か目の当たりにしていた。
「あと暁……って何ものかしら?」
「ああ、あの色白の無表情男? いつも食事とかを持ってくるわよ。それに……」
お絹は少し言葉を濁した。
「それに?」
「男娼みたいなものじゃないのかしら。それも一颯様のお気に入り……」
「そんな……」
風花とどういう関係だったかはわからないが、大切な人がそんな目にあっていると知ったらどれだけ悲しむだろう。
惟子はそう思うと、グッとこぶしを握り締めた。
「私に力があればいいのに……」
ため息交じりに言葉を発した惟子に、お絹は驚いた表情を浮かべた。
「ねえ、あなたさっきからそう言うけど、妖力はあるのよね?」
「え……あるのかしら?」
惟子の曖昧な答えに、お絹は惟子に詰め寄った。
「自分でわからないの? 妖火も知らなかったし……私も妖力が低い方ではないからここに連れてこられたと思っているけど。あなたもそうじゃないの?」
そうなのだろうか? 力はあったとしても使い方がわからない。
困惑した表情の惟子をお絹はジッと見つめた。
「ねえ、あなたもしかして……」
「え?」
何か思い当たることがあったのか、お絹の瞳が大きく揺らめいた。
「お嫁様?」
どこで誰かが聞いているかもしれない。そう思い惟子は慌ててお絹の口をふさいだ。
「シー! その言葉は言わないで」
それを肯定と受け取ったのだろう。お絹は小さく息を吐いて目を伏せた。
「そう、あなたが。そっか……」
その表情を見て、惟子はハッとした。
「お絹、もしかしてあなたサトリさんのことを……」
「嫌だ。気にしないで。昔の初恋よ。失恋したの。きまった女がいるって言われて。そっかあなただったのか」
昔を懐かしむように少しだけお絹は微笑んだ後すぐに表情を戻した。
「ねえ、それならなおさらどうしてこんなところに一人でいるのよ?」
「それが……。こっちの世界に飛ぶときに一人になってしまって。てんちゃんにも会えないのよ」
「てんちゃん? 天狐様ね」
(ああ、そんな名前だった)
惟子は小さく頷くとお絹は考えるような表情をした。
「そうか、あなたなにか不思議な感じがするのよね。もしかして妖石を持っていない?」
小さな声で惟子の耳元でお絹が囁いた。
「妖石? これかしら」
惟子はそっと自分の首にぶら下がっていた、サトリからもらった石と指輪を取り出した。
「これは!そういうことね天狐様たちがあなたを見つけられない理由」
納得したように言ったお絹だったが、惟子はまったく意味がわからなかった。
「わからないのだけど?」
問いかけた惟子に、お絹は初めにもらった石を指さす。
「こっちの石はたぶんあなたの妖力を抑えるもの、そしてこっちの指輪はあなたの存在を隠す結界ね」
「え?結界?」
小さく頷きながらお絹は言葉を続けた。
「サトリ様は現世であなたを守るために、あなた自身に結界を張っていたのね。現世では多少弱まっていたかもしれないけど、よほどのあやかしでない限り正確な場所を特定するのは難しかったはずよ」
(そうか、この2年平和にのんきに暮らせていたのはこの指輪のおかげだったのか)
改めてサトリに感謝しつつ、惟子は指輪と石に触れた。
「それがこのカクリヨに来たことによって完璧にあなたの気配を消すことになったのね。だからすぐには天狐様は見つけられないんだと思うわ」
「どうすれば結界がとけるの?」
詰め寄るようにお絹に聞いたところで、誰かの気配を感じ二人は言葉を止めた。