『まだ痛むだろう?』
その言葉に惟子は素直に頷いた。
絶対的に自分とは同じではないその人に触れられ、怖いはずだが、視線をそらすこともできず、惟子はその赤い瞳を見つめた。
視線がぶつかると同時にサトリと呼ばれていたその人は、惟子の肩に触れる。するとスッと痛みがなくなった。
(うそ⁈)
驚いた惟子だったが、身体を動かしてみても先程のような痛みは感じられない。
自分に起きていることが信じられず惟子は混乱した。
(これからどうなるの?私)
不安から涙が流れそうになったところで、柔らかいこえが聞こえた。
『元の世界にもどりたいか?』
静かに言われたその言葉に、惟子はハッとしてコクコクと頷いた。
『え?サトリ様。この娘返すの?大丈夫?』
心配そうなその声が、まわりから起こり惟子はそっと視線をそこに向けた。
そこには狐ともタヌキとも犬ともいえない小さな生き物が数匹、普通にしゃべり、動いていた。
その光景に改めてみると、まるで昔にタイムスリップしたような豪華なお城のような部屋の布団に惟子は寝かされていた。
しかし今はそれどころでないと思いなおす。
『戻りたいです!』
そう言った惟子に、そのサトリと呼ばれている男はパチンと指を鳴らした。
『まあ、驚くなよ』
(なにを?)
驚くなと言われると、余計に恐怖心が募ることをこの男は知らないのだろうか?
何が起きるのかと、内心怯えつつもう惟子はサトリが見る方向に視線をむけた。
そこには、ふたりの着物を着た女性が音もなくすっとやってくるのが見えた。
『こちらを』
そう言ってうやうやしくサトリに木の小箱を渡す。
(この人達のなにを……)
そう思い、惟子はその女性を見た。
(ひっ!)
言葉がでなかっただけ自分をほめたい気分だった。
『さすがだな。叫ばないとは』
サトリの言葉と、申し訳なさそうな表情をする女性、いや、正確には目も鼻も口もないのだが、それでもなぜか惟子には詫びるような表情に見えた。
『いえ。大丈夫ですよ』
その言葉に、今度はその女性たちは表情を明るくした気がした。