「美味しいわ」
ほとんど変わらないおでんに、からし、味噌、慣れ親しんだ味がして惟子はほっと息を吐いた。

「ねえねえ、あなた西都からきたの? 」
今まで気づかなかったが、風花には連れがいたようで、横から声が聞こえた。

「ええ、そうよ。よくわかったわね」
隣にいたのも、風花とよく似た感じの、人懐っこいあやかしだった。
耳がぴょこんとしていて、髪はダークブラウンさながら三毛猫のような感じの子だ。

「その柄と形、西都のものだもの。あっ私は牡丹よ」
惟子が着ていた着物を指さすと、自分の服と見比べた。

「あら、そうなのね。どうりで着物を見ないと思ったわ」
昨日は慌ただしくて気づかなかったが、今日周りをみて妖都の女はみんな沖縄の琉装のような鮮やかんな色のものだ。

「西都では自分の柄が決まっているのよね?」
それは初めて知ったそんなことを思いながら、聞いていると牡丹は考えるような表情を浮かべた。

「私、その柄を最近見たような気がするのだけど……」

「え? どこでよ」
牡丹の言葉に風花が驚いたように声を上げた。

「どこって」
言葉を濁した牡丹に風花も表情を曇らせた。

「まさか、〝下”へ?」

「そうよ。嫌がるのを連れていかれていたの。西都の衣装だったからよく覚えているわ」
最後は静かに言った牡丹に、その場は静まり返った。

「でもきっと柄も見間違いだし、西都から来たと言ってもお絹には関係ないわよ」
その場の空気を変えようとしたのだろう、風花が言った言葉に牡丹はジッと風花を見た。

「ねえ、風花。本当にいいの? 暁のこと」
その言葉に、風花は一気に表情をこわばらせた。
「その話はしないで!」

「だって、だって。助けられるかもしれないじゃない」
切羽詰まった言葉に、風花は何度か小さく呼吸を繰り返した後ギュッと唇を噛んだ。

「そんなの。出来たらしているわ」
静かに言った風花に、牡丹は「ごめん」と小さく言った。

「ごめんなさいね。お絹。せっかくご飯のお礼に誘ったのに、湿っぽい話になって」
風花の言葉に惟子は、何も言えず小さく首をふった。

〝下”とはどんなところなのか、ここでは何が起こっているのか?
そして、そこに本物のお絹がいる?

そんな疑問が沸き上がる。サトリを助けるために来た惟子だったが、巻き起こる様々な出来事に頭が付いて行かなかった。