#あやかし飯5 サバのムニエルトマトソース掛け
まずはトマトソースを作るため、玉ねぎ、にんじん、セロリとみじん切りにする。
それらを多めのオリーブオイルを熱し、にんにくを入れ香りが立つまで炒める。
野菜を入れていたまったら、完熟トマトを潰したもの、現世から持ってきたコンソメと塩コショウで味を調える。
そして煮詰めればソースの完成だ。
「それは?何をいれたんだ?」
惟子の料理に興味があるのだろう、隣で惟子の手伝いを命じられたあやかしがコンソメを指さす。
「これ?これはね。なめてみて」
家で現世の黄色の入れ物から、カクリヨの小瓶に移し替えてきた粉末を惟子は見せた。
ペロリと味見をすると、そのあやかしは目を輝かせた。
「なんて深みのある味」
市販の物を使っておいて誇れる立場ではないが、この味はあやかしにも受けれ入れられるのは、てんたちで証明済みだ。
「でしょ。美味しいわよね」
出来上がったトマトソースを味見しながら惟子は言葉を発した。
「後は出すタイミングでサバを焼きましょう。お皿を出しておいてくれる?」
その言葉に、手際よく真っ白い皿が並べられていく。
「お絹、そろそろ魚料理よろしくな」
料理長の言葉に惟子は、手際よく切り身にしたサバに小麦粉をまぶして、大きな鉄板の上に乗せた。
皮目がこんがりと焼け、パチパチと音を立てだしたころにはいい香りが漂っていた。
「うーんいい感じね」
焼けた魚をお皿に盛ると、作っておいたトマトソースをかけ彩に、クレソン乗せた。
そして周りにブロッコリーや、プチトマトなどを飾り付ければ出来上がりだ。
慌ただしくのっぺらぼうの給仕のあやかしが、できあがった料理を運ぶのを惟子は見守っていた。
「終わったわね」
滞りなくすべての料理を作り終わると、ホッと惟子は胸をなで下ろした。
いきなり初日からこんなにハードな仕事が待っているとは予想もしていなかった。
「お絹」
椅子に座ってぼんやりとしていたところに、にこにこ笑いながら料理長がやってくる。
「今日の料理、黒蓮様にもとても好評だったぞ」
「本当?」
敵とはいえ、料理を作った相手が喜んでくれるのは嬉しいことだった。
「あのトマトソースのコクはなんなんだ? と興味深々だった」
「秘密の隠し味なのよ」
(ああ、コンソメね。口が裂けても言えないわ)
そう思いつつ惟子はにこやかに微笑んだ。
そんな感じで夕食は残っていたサバで味噌煮を作ると、初出勤は滞りなく終わった。
階段を降り〝中”へと戻って来ると、広間の露店は夜には屋台へと変わっていて、とても賑やかな様子だった。
「うわー、美味しそうね」
何軒も並ぶ屋台は、麺や、揚げ物、パン色々な種類があり、店先にはカウンターがあり、思い思いに酒を飲んだり料理に舌鼓を打っているようだった。
(何か食べて行こうかしら)
そんなことを思っていると、どこからか呼ばれる声がした。
「お絹! こっちよこっち!」
一軒の店の暖簾からひょこりと顔をだしていたのは風花で、惟子を手招きしていた。
「昨日のご飯のお礼にちょっと一緒に飲んでいかない?」
その誘いをありがたく受けると、惟子は風花の隣へ腰を掛けた。
「夜はこんな風になるのね」
キョロキョロしながらいった惟子に、風花は透明の液体の入ったコップをコトンと置いた。
「そうよ。どこも安くておいしいわよ」
目の前のちくわをぱくりと口に入れた風花は、よほど熱かったのだろうハフハフ言いながら咀嚼する。
そんな風花が可愛らしくて惟子はクスリと笑みを漏らすと、目の前の料理を見た。
そこはいわゆるおでん屋のようで、見たことがある具も多く食欲を刺激した。
「おいしそうね」
「おいしいわよ。お絹好きなのを頼んでね。あっ、おじさんこの子にもお酒」
目の前に置かれた風花と同じ透明のコップを一口飲むと、辛口の日本酒だった。
(渋いわね)
こんなに可愛らしい風花と、日本酒とおでんがなぜかおかしかった。
風花に言われた通り、惟子は数種類のおでんを頼むと口へと入れた。