「大丈夫だけど……ゆいちゃん何するの?」
「戦には腹ごしらえも大切よ」
その言葉にてんはポカンとしたあと、大声を上げて笑い出した。

「ゆいちゃんって、ゆいちゃんて……ああ。おかしい」

「だってきっと人間の私なんて、それだけでも敵みたいなものじゃないの? よくはわからないけど。何が起こるかわからないなら、準備は万端にしないとね」
そう言いながら惟子は何を作るか思案する。

#あやかし飯 3 〝手作りアジのみりん干しのおにぎりチーズ入り”

「干す時間が少し短いけど、仕方ないわね」
そう言いながら、みりん干しにしていたアジを魚焼きグリルにいれた。

その間に残しておいても仕方がない白米を大量にボールに移し、ゴマ、大葉を刻んだもの、そして焼きあがったアジをほぐすと混ぜ合わせる。最後に少しの出汁醤油を入れて味を整えた。

半分はそのまま握り、残りの半分にはカフェっぽく小さな角切りにしたチーズとかつおぶしを混ぜ込んで握る。

それにさっとあぶった海苔を巻いて、アジロ網の竹の弁当箱に詰めた。

(うん、美味しそう。サトリさんも大好きだもんね。このおにぎり)

そう思いながら、いつも使っている、おばあちゃんから譲り受けたカフェエプロンと弁当箱をリュックに詰めると大きく息を吐いた。

「さあ、てんちゃん行こうか」
ニコリと笑った惟子に、てんは頭を下げる。

「惟子様、ここからはそう呼ばせて頂きます」
「てんちゃん?」
驚いててんを見た惟子は、真剣なてんの瞳とぶつかる。

「我らが王、覚李様にお力をお貸しください。お嫁様」

その真剣な言葉に、惟子はゴクリと唾を飲み込んだ。

(おばあちゃん!みんな!私をまもってね!)

心の中でそう願うと、惟子は扉の前へと立った。

「行きましょう」
惟子はてんの隣にスーツケースとリュック、それにジーパンにパーカーという姿で立った。

きっと明日から雨が降るのだろう。惟子はそんなことを思った。