「ゆいちゃん? 続けていい?」
呆然としていた惟子は、てんの言葉にハッとすると「お願い」と近くにあった椅子に腰を下ろした。

「それで、本来であればもちろん黒蓮様が次期妖王のはずだったんだけど、少し問題のある人で、妖王様が覚李様も次期後継者候補に挙げたんだ。だから……」
黒蓮と聞いて、惟子はゾッとしてあの時のあやかしを思い出す。その人がサトリの兄であり、次期妖王などとは。確かにあのあやかしではまともな世界などなりそうになかった。

「あの黒蓮とかというやつが何かをしてるってこと?」

「そう、サトリ様を消そうと躍起になってる」
その言葉に惟子は頭を殴られたようなショックを受けた。『消す』すなわちサトリに命の危機があると言う事だ。

「ねえ?黒蓮はもともと偉い人よね?サトリさんはいままでどうしていたの?」

「正当な後継者ではないにしろ、サトリ様だって力を持ったお方だし、母上も
八葉の天狗のご出身であられるから」

「八葉の天狗?」
聞きなれない言葉に、惟子は言葉を挟んだ。
「それはね、妖王のしたには、八つの土地を守る者がいて、そこの1つの天狗。だから、サトリ様はそこの時期長になるはずの方だった。それでもすごい身分の方だよ」
あまりピンとこないが、王様なの下にいくつかの都市があり、そこの長ということなのだろう?市長?知事?そんなところなのだろうか?

市長、知事がいきなり日本にはないが王?内閣総理大臣、天皇陛下になるなど想像しにくく、まったく未知の世界だが、出来る限りの想像力を集めて、惟子はサトリの立場を理解しようとしていた。

「それで? 今サトリさんは?」
ようやく本題に入ろうとしたとき、ピシっと晴れた空に稲妻が光る。
その瞬間、てんがぶわっと大きくなる。