「てんちゃん今何歳よ?」
その問いにてんはだんまりを決め込んだようで、ひたすら食事を口に運んだ。
「まあ、惟子それぐらいに……」
「でも、サトリさん。きちんと栄養は取らないとだめよ?」
軽く睨んだ惟子に、サトリは優しく微笑んだ。
本当に大切に、そして慈しむような笑顔に、惟子はドキッとして顔が熱くなるのを感じた。
「そうだな。惟子の食事はどれもうまい」
「ねえ、サトリさん?」
(食事だけでそばにいてくれるの?)
この2年惟子はずっとその言葉を言えずにいた。
自分には特別な力があるから、嫁にするはっきりと言われていた惟子だが、この2年間のサトリはとてもやさしく、あやかしだからとか、人間だからとかそんな関係など、気にならないほど惟子の中に甘く浸食していた。
普段、目が赤い意外なんら人とは変わらないサトリ。
時間があれば、こちらの世界で車も運転して買い物にもついてきてくれるし、一緒に遊びにも行ってくれる。
サングラスをする姿すら、かっこよくて惟子としてはあまり外に出て欲しくない思いもあるぐらいだった。
「惟子?」
そんな惟子の視線に気づいたのか、またもやサトリは甘く微笑む。
「ねえ?サトリさん。私サトリさんがとても大切よ」
「知ってる」
少しだけイジワルそうな瞳を浮かべ、サトリはクスリと笑みを浮かべた。
「サトリさんって、意外と意地悪よね」
惟子のいいことなど、わかっている様な気がして、惟子はプッと頬を膨らませた。
「俺だって惟子のことが大切だよ」
(ご飯を作ってくれるから? 浄化できるから? 役に立つから?)
そんな思いもあるが、今はこのサトリの微笑みを信じたい。
きっとまだまだあやかしの旦那様の事はなにも知らない。
これからまだ長い時間をかけて、このあやかしを知っていきたい。
惟子はそう思いながら、遠くで雷がなる空を見つめた。