兎並学園~私達姉妹の物語~

新崎螢(あらさきほたる)


高校二年生・十七歳

天使や悪魔などあらゆる
人じゃないものを見分けられる。

新崎茜(あらさきあかね)

高校一年生・十六歳

螢の妹・趣里の恋人

姉同様、人じゃないものを
見分ける力がある

香坂未琴(こうさかみこと)

高校二年生・十七歳

普通の人間・蛍の友人

皆賀怜耶(みながれいや)

高校二年生・蛍のクラスメイト

若干、霊感体質

添川魅麻(そえかわみお)

高校一年生・十六歳

普通の人間・茜の友人

泉堂崇麻(せんどうたかお)

世界史担任教師・四十歳

普通の人間

蛍と茜が学校説明会に来た際に担当した

鷹尾優希羽(たかおゆきは)

英語担当教師・三十歳・産休中
☆悪魔☆

湯平克(ゆのひらこく)

螢のクラスメイト

高校二年生・十七歳・転校生

♬✧*。♬*.+゜♬✧*。♬*.+゜♬✧*。

♡天使♡

直宿翼(とのいつばさ)

螢のクラスメイト

高校二年生・十七歳
【実年齢は百七十歳】

『ラグエル』の名を持つ
《神の友》

仲間が堕天しないように
監視している

永海涼音(ながみりおん)

三組の担任で
科学担当教師・三三歳
【実年齢は二百十歳】

『ラファエル』の名を持つ
《神の治療》

蛍の恋人

遊馬啓一(あすまけいいち)

国語担当教師・三三歳

産休の優希羽の代わりに来た
【実年齢は二百十歳】

涼音とは天界でも
仲がよかった

『サリエル』の名を持つ
《神の命令》

邪視を持つ

♬✧*。♬*.+゜♬✧*。♬*.+゜♬✧*。

★死神★

笠巻趣里(かさまきしゅり)

高校一年生・十六歳
【実年齢は不明】

茜のクラスメイト兼恋人

♬✧*。♬*.+゜♬✧*。♬*.+゜♬✧*。

†妖狐†

矢田部勝典(やたべかつのり)

数学担当教師・四七歳
【実年齢は三八〇歳】

久々利翔香(くくりあすか)

保険医・三〇歳・イケメン
【実年齢は不明】

♬✧*。♬*.+゜♬✧*。♬*.+゜♬✧*。

※猫又※

道川(みちかわ)

高校三年生・十八歳
【実年齢は不明】

◌烏天狗◌

茂住(もずみ)

兎並の校長・五二歳
【実年齢は不明】
私、新崎螢と妹の茜は
小さい頃から人に化けている
人じゃないものを見分ける力があった。

そして、入学した高校は
なんと‼ 校長が《烏天狗》‼

担任とクラスメイトは
《天使》と《悪魔》

保険医と数学担当教師は《妖狐》。

茜の恋人は《死神》だし
名前も知らない先輩は《猫又》。

見分けられてしまうのは
仕方ないことだけど、
入学した高校がこうも
《人外なもの》が多いとはね(苦笑)

両親は知らない。

私達姉妹がそんな特殊な
“力”を持っていることを。

だけど、これが私達
姉妹の日常だ。
『ラファエル』の名を
持っているからなのか
人間界での性格なのか
永海先生は優しく、
何時も笑っている。

そんな永海先生から
放課後、話しがあるからと
屋上に呼ばれたのは
ハロウィンも終わり、クリスマスイブには
少し早い、十二月の初めだった。

「悪いな、わざわざ
寒い中呼び出して」

特に用事があったわけじゃないし
茜は笠巻君とデートだって
言ってたから帰りは遅いだろう。

「大丈夫ですよ(๑^ ^๑)」

幸い、今日はそんなに
風は強くないしね。

「新崎、俺はお前が好きなんだ」

永海先生が私を⁉

「私でいいのでしたら
宜しくお願いします……」

私も密かに永海先生に
好意を抱いていたから嬉しい。

「こっちこそ、宜しく」

私に天使の恋人ができた。
さて、涼音と
付き合い出したのが十二月の初め。

そして、今日はクリスマスイブ。

「《今日、デートに行かない?》」

終業式だったから
私はとっくに帰って来ている。

「《仕事は?

今日は忙しいんじゃないの?》」

付き合いだしてから
プライベートでは
タメ口と呼び捨てで話すようになった。

「《大丈夫だよ。

って言っても夜八時頃に
なっちゃうけどね(苦笑)》」

茜も笠巻君とデートの
約束してるって言ってたし、
お母さん達は今日も遅いだろう。

「《行く♡♡

待ち合わせは駅にしよう*♬೨》」

家まで来てもらうと
ご近所から両親に
伝わる可能性がある。

それは避けたい。

♬✧*。♬*.+゜♬✧*。♬*.+゜♬✧*。

「お姉ちゃん」

涼音とメールしていると
茜が部屋に来た。

「どうしたの?」

「洋服、選んで欲しくて」

そういうこと♬*゜

「わかった」

茜の服を選んであげて
私もデート用の服を選んだ。

「茜は何処で待ち合わせしてるの?」

私と涼音は駅前。

「◆◆公園」

あそこね。

「じゃあ、途中まで
一緒に行かない?

私は駅で待ち合わせだから」

茜達が待ち合わせしている
公園は駅に行く途中にある。

「うん*♬೨

公園まで手繋いでもいい?」

珍しいなぁ。

「いいよ、久しぶりに手、繋ごう」

何年ぶりだろう、
こうして茜と手を繋ぐのは……

すれ違って行く人々。

中には人に化けているのもいるけど。

「着いたよ。

私は行くから
笠巻君によろしくね」

公園の入り口で別れ、駅に向かった。

♬✧*。♬*.+゜♬✧*。♬*.+゜♬✧*。

駅に着いて直ぐに見つけた。

「涼音」

喧騒の中、少し大きな声で呼んだ。

「蛍」

こういう時、つくづく
私服でよかったと思う。

涼音の車に乗りドライブへ。

家に着いたのは十時。

「親御さん大丈夫か?」

人間界では教師だもんね(苦笑)

「大丈夫だよ、
帰ってくるのは夜中だから」

茜は帰って来たかな?

「じゃぁね。

また、電話かメールするよ」

涼音の車から降りて
玄関の鍵を開けた。

「あぁ、温かくして寝ろよな」

寒いから心配してくれてるんだね。

「うん、涼音も風邪引かないようにね」

冬休み中は会えないだろうからね。

「わかってるよ。

じゃぁ、お休み」

涼音を見送ってから
家の中に入った。

♬✧*。♬*.+゜♬✧*。♬*.+゜♬✧*。

まぁ、短い冬休みの間には
案の定、会えなかった。

まさか、冬休み明けに
新たな“天使”が来るとは
想像もしていなかったけど(苦笑)
産休に入った鷹尾先生の
代わりに来た先生は“天使”。

普通の人間には
わからないだろうけど
私達は別だ。

*゜*゜*゜*゜*゜*゜*゜*゜*゜

「あいつが人間界に
降りて来るなんて珍しいな」

昼休み、空き教室で
涼音とお弁当を食べていたら
そんなことを呟いた。

「知り合い?」

年は涼音と同じくらいに見えたけど。

「天界では仲がよかったんだ。

あいつの天使名は“サリエル”だから
天界でも少し遠巻きにされていてな……」

邪視の持ち主か‼

「誤解されていたんだね」

月を支配し、仲間を堕天させ
(しかも、罪の重さを量ってたし)
死者の魂を狩り
死を司っているのが
誤解されやすい要因だろうね。

「螢は知ってたのか?」

だけど、彼は本当は優しい天使だ。

「うん、だって、
自分が堕天させてしまった
仲間のために血の涙を流せる
彼自身が堕天使なわけなもん」

邪視だって決して悪い物じゃない。

真実を見抜き、
悪を正すための物だし
そんな、辛い役目を
引き受けてくれている彼に
ありがとうと言いたい。

「遊馬先生、入ったきたらどうです?」

私がドアの方に向かって
声をかけると涼音が笑った。

「何で、俺がいるってわかった?」

ドアを開けて入って来た
遊馬先生は心底驚いている。

「螢はちょっと
特殊な力を持っていてな」

ありゃ、私が答える前に
涼音が答えちゃったよ。

「特殊な力?」

いきなり、“特殊な力”があるなんて
言われてもピンとこないと思う。

ましてや、天使にしてみれば
私達人間なんて赤子くらいの年だろうし。

「私は人外な者を見分けられるんです。

二年の新崎蛍で涼音の恋人ですよ」

大方、涼音の後をついて来て
此処に入るのを見たんだろう。

涼音は気付いていながら
気付かないフリをして
空き教室に入ったに違いない。

私に会わせたかったんだろうね。

遊馬先生がドアを閉めたのを
確認して、空いてる席を勧めた。

「涼音、遊馬先生が
此処までついて来てるの
知ってたんでしょ?」

私の質問に涼音は
またしても笑った。

確信犯だね。

「ほら、螢はこいつに
言いたいことがあるんだろう」

話をすり替えたね(苦笑)

*゜*゜*゜*゜*゜*゜*゜*゜*゜

天使だからのか
単に感がいいのか
時々、心を
読んだようなことを言う。

「ありがとうございます」

突然お礼を言った私に
遊馬先生は驚いている(苦笑)

「え?」

それもそうだ。

「遊馬先生が“サリエル”だと
涼音から聞きました。

邪視は真実を見抜くための物ですし
無闇矢鱈に仲間を堕天させていた
わけじゃないことはわかっています。

だから、そんな辛い役目を
背負ってくれている遊馬先生に
お礼を言いたかったんです」

人間に言われても嬉しくないだろうけど
私は言いたかった。

「変な人間だな(苦笑)」

まぁ、普通に考えて
“天使”にお礼言う人間は
私くらいだろうね(笑)

だけど、事情を知れば
茜も同じ事を
言うと思うけどなぁ。

「ありがとうございます」

さっきとは違う意味で
お礼を言った。

結局、昼休みが終わるギリギリまで
三人で沢山、話をした。

※天界のこと

※私達姉妹のこと

※学園にいる人外な者のこと。

此処は色々な者達が
入り交じっている場所だ。

「私は先に教室に戻るね」

教師二人にそう告げて
空き教室を出た。
あの後、午後の二時間を受け、
三人で学校を
出たまではよかったんだけど、
私達はちょっと、油断していたようだ。

〔逢魔時〕に両親と
遭遇するとは思ってもいなかった。

妖怪などに会う時刻とされている
日没直後の時間帯。

この時間帯から明け方までは
人間のふりをしている
天使や妖怪達も
元の姿に戻る。

私達はそんな彼らと
普通に会話をしていた。

しかし、一つ忘れていたんだ……

この時間帯の
ある一定条件が
満たされた時のみ
“普通の人間”にも
妖達の姿が見えることを。

それは、【逢魔時に
能力者と妖(あやかし)が一緒にいること】

つまり、私達と笠巻君が
一緒にいることで
両親にも死神姿の笠巻君が
見えているということになる……

三人で帰っていた私達は
死神姿の彼と普通に会話をしていた。

「螢・茜、
そこにいるのは死神だよな?」

え"……

この声、父さんだよね⁉

その声に茜も笠巻君も気付いた。

母さんは父さんの後ろに隠れている。

あちゃー(焦/汗)

妖達は“普通の人間”にとっては
やはり、畏怖の対象なのか……

私達姉妹にとっては
小さい頃から見えるため、
遊び相手でもあったし、
今では恋人達でもある。

父さんの声を聞いて
笠巻君は茜を私の方に押しやった。

「趣里……」

茜も理由はわかっているのだろうけど
寂しそうな小さな声で笠巻君を呼んだ。

こうなっては隠しきれないだろうね。

『そうだよ。彼は死神だよ。』

だけど、彼は優しく若い死神だ。

茜のクラスメイトで恋人でもある。

「何故、死神と普通に話している?」

怪訝そうな声で父さんは訊いてきた。

『愚問だね。

私達は小さい頃から色んな
妖達と話したり一緒に遊んだり
して来たんだもの、今更、死神くらいで
驚かないし彼が悪いものでは
ないのは話せばわかるわ』

そう確かに、出会った妖怪達が
皆が皆、いい妖怪だったわけじゃない。

中には追いかけて来たり
脅して来たりする妖怪達もいたのも確か。

だけど、兎並は
人と妖が共存している場所だ。

まぁ、そもそも、
人間側が気付かないだけで
妖怪達は人間に紛れて
色んなところにいるんだけどね。

私は茜を笠巻君の方へ
押し返して父さんとの距離を詰めた。

最初は吃驚した。

だけど、あそこは
私達にとってはいい場所だ。

自分達の能力を
隠さなくていいんだから。

ん? この気配、涼音⁉

心配して来てくれたのかな(苦笑)

茜達も気配に気付いたみたいね。

そして、涼音は私と父さんの間に
割り込むように純白の羽を
折り畳みながら空から降りて来た。

「天使?」

父さんの後ろに隠れていた
母さんが呟いた。

『随分前に学校を出たのに
三人の気配が動かないから
心配して見に来たんだが
ちょっと、
厄介なことになってるな』

はい、その通りだよ(苦笑)

『ぁはは、ちょっと、油断しちゃってさ』

両親が帰って来るのは
大抵、夜中に近い時間帯だから
まさか、この時間帯に会うとは
思っても居なかったんだ。

『しかし、何時見ても
涼音の羽は綺麗だよね』

私を背に庇うように
立っている涼音の羽が
間近にあって穢れのない
純白の羽は本当に綺麗だと思う。

『あいつの羽も綺麗だぞ?』

遊馬先生のかぁ~

『見せてくれるかな……』

少し、仲良くなれたとは思うけど
そう簡単に羽を出してくれるかな?

天使にとって羽は大事なものだ。

天界と下界を
行き来することができる
唯一の手段なんだから。

『大丈夫だろう、
頼めば見せてくれるさ』

そんな事を話していたら
遊馬先生の気配が近付いて来た。

『頼む前に見れそうだな(クスッ)』

噂をすれば影とは
こういうことだよね。

「成る程、お前達の気配が
動かなかったのはそういうことか」

ぅゎぁ~

涼音と同じくらい綺麗な羽だ//////

悪魔の漆黒の羽もある意味綺麗だけど
対象的な天使の
純白の羽はもっと綺麗だ。

「新崎達の両親か?」

『そうですよ』

天使や死神と普通に
話す私を見て両親から
怪訝そうな気配が伝わって来た。

さて、どうするかな……

「そうか。

しかし、珍しい偶然が
重なったもんだな」

そう、“珍しい偶然” 。

何時もは笠巻君は
一緒に帰らないし、
両親がこの時間帯に
帰って来ることはない。

ましてや、学校帰りに
会うなんてありえないことだった。

それに、私達と妖達が
一緒にいても“普通の人間”にはわからない。


『本当ですよね(苦笑)

しかし、二人とも心配性ですね』

涼音は彼氏だから
まぁ、わかんなくもないけど
遊馬先生まで来るとは思わなかった(笑)

「この時間帯は
何かと危ないからな……」

なまじ、見える分
狙われやすいのは確かだけど
今日は笠巻君も一緒だし、
逆に見える分、対処しやすいのも確か。

“見える”ことはまさに紙一重だ。

『ありがとうございます』

やっぱり彼は優しい天使だ。

「お前達、今日はさっさと帰れ。

また明日、学校でな」

遊馬先生は一言、
それだけ言うと涼音を連れて
学校へ戻って行った。
家に帰って来たのは
いいのだけれども
誰一人として喋ろうとしない。

茜と二人なら色々喋っただろうけど
母さんと父さんがいるから
何を喋ったらいいのか……

リビングは沈黙に包まれている。

私達の能力(ちから)のことを
さっきまで知らなかった両親は
さぞ、驚いただろう。

死神や天使と
当たり前に話をしていたんだから。

両親にしてみれば
“普通”じゃないのは確かだけど
私達にとっては“普通”のこと。

そして、大切な人達。

「何で今まで黙っていたの?」

小さな声で母さんが訊いて来た。

最初に口を開いたのは母さん。

何で?

さっき、父さんが
“何故、死神と普通に話している?”
と訊いてきた時と同じだ。

『言ったらそのことを
すんなり受け入れてくれたわけ?』

そんなこと無理に決まっている。

さっきの反応でわかっていた。

あれは、怯えた目だ。

人は自分の中ある常識を越える
何かに遭遇した時、それを
排除しようとする傾向にある。

『無理でしょう?』

つまり、私達と母さん達では
そもそもの“常識”が違う。

私は一人でずっと喋っている。

母さん達は口を開こうとしない。

わかっていたことだ。

『茜、部屋に行くよ』

何も言わない二人を置いて
茜とリビングを出て部屋に戻った。

結局は、自分の中ある“常識”でしか
人は物事を計れない。

別に理解してもらおうなんて
最初から思っていないけど。