榊原と出会った、数日後。
「――もうおしまいだぁ!」
俺は部屋の布団の中で、丸まって叫んでいた。
あの男に会ってから、なぜか複数の幽霊にまとわりつかれるようになった。
幽霊たちは、どうやら俺のことを捕まえたいみたいだ。
下手をすると一歩外へ出たとたんに、幽霊に追いかけられる。職探しどころではなく、もはやおちおち買い物にも行けない。ただ不思議なことに、どうやら幽霊たちは家の中までは入ってこられないらしい。逃げ帰ってくれば何とか助かった。
幽霊に遭遇するたび、俺は家の中で膝を抱え、あれは一体何なのだろうと考える。
俺の様子がおかしいからか、鈴芽にまで心配される始末だった。
「何、お兄ちゃん、まだ幽霊が見えるとか言ってんの?」
「そうなんだよ。俺がおかしいのか、それとも世の中がおかしいのか、どっちだと思う?」
「お兄ちゃん……病院行ったら?」
鈴芽は呆れ半分、心配半分といった表情だ。
おかしいのは俺の頭なのだろうか。けれど幻覚にしては、やけにリアルだ。こんなんじゃ、まともに生活できない。
それに一番気になるのは、祖父のことだった。
祖父の霊を見たのは榊原に助けられた時の一回だけだが、何か伝えたいことでもあるのだろうか。それとも、やはり他の霊のように、俺を呪い殺そうとしているのだろうか。考えれば考えるほど憂鬱になる。
「ううう、どうしよう……」
自分で解決できればいいのだが、そんなことができるならとっくにやっている。
悩み抜いた末、結局俺は榊原からもらった名刺の電話番号に連絡してみることにした。
他に解決方法が思いつかないので、仕方ない。とはいえ、また嫌味を言われたらと思うと、気が重かった。俺は憂鬱な気持ちで、名刺を睨みつける。
「……とりあえず、かけてみるか」
俺は緊張しながらスマホの画面をタップした。数回呼び出し音が鳴った後、応答がある。
「はい、榊原陰陽師事務所です」
てっきり本人が対応するのかと思ったが、電話口の人はおそらく女性だろう。けれど子供のような、老人のような、少し不思議な声だった。
「あの、榊原さんに名刺を頂いて電話しました。えっと、俺、幽霊が見えるんですけど……この事務所って、そういう相談を受け付けていますか?」
「承知しました。それでは、ご予約のお日にちはいかがいたしましょう? お急ぎで? それでしたら今日ご案内できますが……」
相手の女性は特に不審がることもなく取り次いでくれた。名前と連絡先を聞かれ、事務所の場所について簡単な説明を受けて、電話を切る。
俺はスマホをしげしげと眺めた。呆気ないほど簡単に予約が取れてしまった。陰陽師ってこういうものなんだろうか? まだ信じられない気持ちで、とにかく事務所へと向かう。
外に出るとまた幽霊に遭遇しそうなので、こっそり周囲の様子をうかがう。
幸い、今は大丈夫みたいだ。お守りがわりに懐中時計を握り締め、また幽霊に追いかけられないように、全速力で駅に向かった。